ワン 25
「……どう、だった……?」
「大丈夫だったよ。襲われそうになったけど、蒼のキスマークで逃げていった」
「襲われたの!? どこ!?」
「ちゃんと聞いて。襲われそうになったって言った」
「……襲われてないってことね。あ~よかった」
「さすがに盗聴はしてなかったか」
「リカと会ってたからね」
「……」
そんな堂々と。リカと会ってなかったらしてたって言ってるもんじゃんか。
「ってちょっと待って。キスマークで逃げたってことはさーやの裸見たってこと!?」
「あ~…押さえられちゃって」
「あいつ……さーやの体を見ていいのは僕だけなのに」
「……ごめんね?」
「…………今日もさーやを堪能させてもらうから」
「昨晩も今朝もしたじゃん!!」
「……。足りるわけないでしょ!僕はさーやの前だと元気だからね!!」
「……」
ひぃぃぃ! ただでさえ、腰がまだ痛むのに! 元気すぎるだろ!!
「……。蒼は?」
「え」
「蒼はどうだったの?」
「あーと……」
蒼がフードに手を添える。場所は頬の部分。……まさか!
「……ビンタされちゃった」
私は蒼のフードを下ろす。人の手の形に赤くなっていた。
「……」
「でも、それだけだから。あとは何もなかったし」
「……」
「こんなの、さーやがキスしてくれたら何でもないんだからね!」
「……」
「なーんてね!」
私は蒼を引き寄せた。労わるように優しくキスを落とす。痛みが薄れるように。少しでも早く治るように。そんな想いを込めて何度も触れた。
「さ……さーや……っ」
「……うるさい」
「ん……さーや……」
「イケない口だね」
「! ……っん……ぁ」
唇を甘噛みしてから舌を差し込んだ。舌を吸い込んだり、歯茎をなぞったりする。蒼の甘い声が私の奥を刺激する。
「さーや……」
気持ちのよさそうに目がウルウルしている蒼。可愛い。いじめたくなる。蒼が私をそうさせる。
「……もっと欲しい?」
「…………欲しい」
「やだ。あげない」
「……な、んで……!?」
「蒼が可愛すぎるから」
「……なっんで……もっとさーやが欲しい!」
「待て。……できないの?」
「う~……できないぃ」
「できなきゃあげない」
「そ……そんな……さーやぁ!」
いじめがいがある蒼にゾクゾクしてしまって、私まで待てを食らっているようだ。奥が、疼く。
蒼の手を掴む。指先を唇で挟む。
「っ……」
指を口に含む。
「……ぁ……」
蒼の一つ一つの表情が色っぽくて、私に熱を帯びさせる。
「~っ……私の方が限界かも」
「さーやっ……っ……」
蒼を押し倒した。やっと食事にありつけた動物のように食らいつく。触れたくて、隙間を埋めたくて、混じってしまいたくて。こんな私、知らない。
「さーや……さーや……!」
蒼のせいだ。全ては蒼が悪い。私をこんなにさせるのは蒼しかいない。
「蒼っ……!!」
蒼のいない、私? ……もう考えられない。
―――…
蒼にもらったキーホルダーがスマホに、ネックレスが首元に輝いた。鬱陶しそうな顔をしながら未希は私を視界に入れる。眉間にしわが寄っていて美人な顔が台無しだ。
ここは喫茶店。未希と前回来たお店だ。ブラックコーヒーが美味しかったらしい。
「まさか本当に犬に食われたとはね。報告乙」
「……食われたというか食ったというか……」
律儀に未希に報告する私もどうかしているけど。抑えきれない想いを誰かに話したかったのもある。
蒼のことが好きだと分かってから、想いが止まらない。止まらなくて怖い。分散させないと、どうなるか分からない。
「……で? 何がどうなったわけ?」
「聞いてくれるの!?」
「……。見るからに聞いて、って顔してんじゃん。見てるのうざいから話しなよ」
「ふへへ」
「きも」
未希はボンキュッボンが分かるくらいのぴったりしたワンピースで、太ももならぬ細ももが伸びていた。今日も足を組みながら、パンツが見えるか見えないかぎりぎりを攻めている。
「実はね……」
「早く飽きてもらうためにVS飽きない自信がある? ……なにそれ」
「うん」
自分のことを話すのは照れた。いや、自分と“彼氏”のことか。……彼氏! なんという響き!!
「……沙彩さ」
「何!? 羨ましい?」
「あんたバカ?」
「え……なにが」
テーブルに頬杖をつき、険しい表情でこちらを見る。浮いた気持ちが落ち着く。
「飽きてもらうためと口で言いながら、気を引くような行動をしてるの気づかないわけ?」
「気を引くような行動って?」
「怖かったんでしょ、奪われるんじゃないかって。だから、体を使ってでも失いたくなかったんでしょ。本当はものすごく好きなくせに何強がってるの」
「それは飽きてもらうために…」




