ワン 24
というわけで。
「沙彩」
「……遼」
和風なこじんまりとしたお店の個室で遼と向き合っていた。キスの後、気まずくなったままだったから何をどう切り出せばいいか分からない。
「……」
「……」
沈黙が続く。両手を握りしめる。緊張で喉が渇いてきた。
「あいつとうまくいったの?」
しん、とした室内に遼の声が響く。
「え、あ……うん。そうなの」
「そっか……よかったな」
「その……いろいろありがとう。協力してくれて」
「……沙彩があいつを選ぶなんてな」
「……」
「似合わないよ。すぐ終わるに決まってる」
「……」
すぐ、終わってしまうのだろうか。そうかもしれない。でも、もう、蒼のあたしへの気持ちは疑わない。蒼は私のことが大好きだって分かってる。
「……私たちだって結局別れたよ」
「……」
「中身見てくれて付き合ったとしても終わるものは終わるんだよ。なら、一目惚れから付き合ってもいいじゃん」
「終わらない方法があるよ」
「え?」
「今からでも遅くない。……沙彩、俺とセフレになろう」
「…………は?」
遼が立ち上がり私の隣に座って手を握ってくる。蒼とは違う感覚で違和感を覚える。
「そのつもりだったんだ。あの時……バーで沙彩にキスされた時に沙彩とならイケるって」
「……」
「気持ちは冷めてたけどさ! 沙彩、キス上手いし、俺ら相性も良かったろ?」
「……」
「別れた後もちょくちょく連絡してキープしといてよかったわ」
「…………キープ」
え、じゃあ何。遼が私と別れた後も連絡くれたのは私がキス上手かったし相性も良かったっからキープしてたと。そこで私がバーでキスをしたからイケると思ってセフレにしたかったと。
「“別れたこと引きずってる”って嘘だったの?」
「そうだよ」
「“バーに行った時に言われた言葉、俺も同じだった”“沙彩とやり直したい”って言葉も?」
「うん。だってその方がいいかと思って。いきなり“セフレになろう”って言っても沙彩びっくりするだろ?」
「……」
全ては私をセフレにするためだったというわけか。なんと滑稽なんだろ。
「俺、たいして沙彩のこと好きじゃなかったんだよね。付き合ってみるか~って感じで付き合ったけど、つまらなかった」
「……」
「けどさ、やることが目的だったら俺ら上手くいくと思わね?」
「……」
「俺を気持ちよくさせてよ」
「……」
遼の手を振り払う。乾いた音が空間に振動した。
「ふざけないで!」
「……。ふざけてなんかないよ。本気で言ってる」
「セフレになんてなるわけないでしょ!?」
「ならないんなら、ならせるだけ」
畳の上に押し倒される。加減を知らない強さで両手を握られ骨がギシギシ鳴った。
「痛い!! 離して!!!」
「あんまり騒ぐなら口を塞がなきゃね?」
「……」
お腹から服をいっぺんに巻き上げられる。晒された下着。スースーするお腹。蒼じゃない男に見られてる。
「……なんだこれ……」
遼の力が弱まった。凝視しているのは私のお腹。その後に襟から首筋。
「……あいつ……」
遼は私の服を静かに戻した。何もされなかったことに私はクエスチョンマークでいっぱいだった。
「気持ち悪いほどのキスマークにやる気なくなったわ。もういい」
遼は出ていった。気持ち悪いほどのキスマーク……? まさか全身に!?
「うわ~……」
家に帰ってから鏡で見てみるとキスマークだらけだった。キスマークがない場所がないんじゃないかレベルであった。遼を退治できたことは蒼に感謝しなきゃいけないけど、このキスマークの量に引きつつあるのは事実。
「ふぅ……」
蒼の方は大丈夫だっただろうか。蒼の部屋に行ってみようかな。
扉を閉めて、蒼の部屋の様子を見る。帰ってきてるかな……。
恐る恐るインターフォンを鳴らそうとすると、ガチャッと目の前の扉が開いた。フードを被った蒼の目がこちらを見る。不安そうな目だった。
「さーや! 大丈夫だった!? 何もされなかった?」
蒼が抱き着いてくる。そのぬくもりに、目を閉じて応える。
「寒いでしょ? 入って入って!」
部屋に入っていった蒼を追う。フード……なんでフード? フードで頬と髪の毛は隠れている。
ソファに並んで座る。早速蒼はこちらに向き直り、私の両肩に手を置いた。




