ワン 22
―――…
遼とのキスは何も感じなかった。驚くほどに、何も。それに比べ、蒼への気持ちは二倍にも三倍にも膨らんだ。蒼が私を支配した。
だから決めた。蒼には諦めてもらおうって。体を重ねれば蒼も飽きるだろうって思った。
この考えが強引だろうと構わない。蒼が諦めれば私の気持ちも冷めていくだろう。なかったことになるだろう。
私は蒼と気持ちを繋げることは望まない。だって、欲しいのは平穏。蒼と出会う前の私へ戻るだけ。
そのために蒼と体を繋げる。やれば飽きる。きっと、そう。
―――…
舌を差し込むと水音がぴちゃぴちゃと鳴った。唾液が混ざる。戸惑っている舌に絡ませるとビクンと体が跳ねた。
「あっ……さーや!!」
呼吸は乱れているが、もっと深く、もっと奥まで……と口づける。足りなくて、もう一方の手で蒼の顎を掴み、持ち上げた。角度が深くなったことで隙間なんてもうなかった。
「ふっ……ぅ!」
甘い蒼の声が私をさらに興奮させる。私の動きにくいスーツのジャケットを脱ぎ捨て、シャツのボタンを開けた。
私の両手から解放された蒼は私の手を掴む。キャミソールがギリギリ見えるところで止まった。
「ど……どうしたの? 何かあった!?」
驚きと焦りを感じられる表情をする蒼。顔はもちろん真っ赤だった。
「蒼もしたいだろうし……しよ?」
「うっ……確かにしたかったし、こんなさーや見たことないから嬉しいけどさ」
「じゃあいいじゃん」
「いや……あの……さーや?」
簡単に解けた蒼の手を私の膨らみの上に置く。
「!?!?」
限界まで目を見開いた蒼は口をパクパクさせながら私を見た。
「嫌…?」
「……ぐはっ……」
興奮しすぎたのか鼻血を吹きだした。綺麗な鮮血。ティッシュを取ってあげて拭いてあげる。
一旦蒼の上から退くと蒼は体を起こした。鼻に突っ込まれたティッシュは赤く染まっていく。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない! 何!? どうしたの? さーや!!」
私の肩に手を置いてぶんぶん上下に振る。その衝撃で取れかけていたシャツがボタンから離れ、キャミソールがさっきよりも多い範囲で顔を覗かせる。
「……!」
バっと目線をそらした蒼。自分で私のシャツを脱がしたことだってあるのにその反応は何だ?
「……どうしたの? なにがあったの??」
私の手に自分の手を重ねた。少しだけ手汗があった。
「……」
「……」
「嫌なの?」
「嫌じゃないよ! 嬉しいよ!!」
「なら、いいじゃん」
「理由を教えてって言ってるの!」
「……理由……ね……」
「急にエロティックさーやになった理由!!」
「……」
私のことを諦めてもらうために抱いてもらうなんていったら、蒼は呆れるだろうか。幻滅するだろうか。
…でもいいか。そのための今なんだし。
「……私のこと好き?」
「大好き!」
「リカさんのことは?」
「友達! ちゃんとリカに言ったから。さーやが好きだからって」
「……蒼」
「何?」
「私のことさっさと抱いて、飽きて」
「…………は?」
「飽きて。……蒼」
理解できないのか蒼は何も言わずに瞬きを繰り返す。だんだん表情が険しくなってくる。
「な、に……言ってるの?」
「そのまんまの意味だよ」
「抱いたらもっと好きになるに決まってるじゃん!」
「なんでよ。飽きるでしょ」
「飽きないよ! 飽きない自信があるよ!!」
「……っ」
「無駄だよ! そんなことしても」
「……」
「全然伝わってないみたいだね。思い知らせてあげるよ」
蒼は私の手首を掴むとグッとのしかかる。私をベッドに敷くと詰めていたティッシュを捨てた。さっきと立場が逆転する。私の臍当たりに蒼が馬乗りした。
早く飽きてもらうためにVS飽きない自信がある
勝つのはどっちだ? 勝負の鐘が鳴った。
「ベッドで迫られてるさーやもエロ……」
私の顔に両手を添えてキスを落とす。ゆっくりじんわりと私を誘うように触れる。
「…、……っ」
気持ちいい。柔らかい。でも……
私は蒼を倒し、再び抑え込む。じれったい。もっと。
「さー……んっ」
開いた口に突っ込んだ。どっちがどっちか分からなくなるくらいにしゃぶりつく。溢れた液体は蒼の肌を伝う。私は親指で掬って舐めた。
「やったな……!」
蒼が上を取ると妖艶に笑う。散らばっている私の髪にキスを落とすと、全身へと移っていった。
触れたことがない場所に触れていく。柔らかくて、優しくて、触れるたびに“好き”が伝わってくる。
「んっ……ふ……」
なんだこれ。体が震える。もっと感じたくて体が震える。
耐えられなくなって、蒼に乗る。今度は、私が蒼の全身にキスを落としていった。
お互いがお互いを求めていた。もう、止まれない。止まらない。




