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ワン 21

 蒼とリカのキスが思い浮かぶ。紅い唇と健康的な唇がお互いの隙間を埋め合うように、パズルみたいにうまくハマった。ハマることが決まっていたかのように。


 頭から追い出すように頭を振る。消えろ! 消えてしまえ!! 私の脳を占領するな!!!


「沙彩……? どうかしたか?」

「虫! 虫がしつこくて!!」

「いるよな~しつこい虫」

「……」

「何を目的に近づいてきてるか分からないよな」


 でも。蒼の私を好きだっていう気持ちは、蒼が何度も何度も伝えてくれたから分かっている。分かってるつもりでいる。盲目なくらいに。

 キスだって蒼からではないから、蒼の気持ちが変わっていない可能性だってある。相変わらず、私を一途に思ってくれていることだってある。気持ちは変わらないよ、って電話でいいたかったのかもしれない。


 そんなことは分かっている。分かっていても悪い方に考えてしまう。もしかしたら気が変わってしまったかもしれないなんて考えてしまう。


 だから嫌なんだ。私は静かでいたい。穏やかでいたい。心を乱されたくない。一喜一憂なんてしたくないんだ。


「……話戻るけど、俺、沙彩とやり直したい」


 遼とだったら揺らがない。きっと、距離感保ちながらいい関係を築いていける。だから遼ともう一度あの楽しかった日々を……。


「沙彩もそうだろ……?」

「……私は……」


『さーや、大好き』

『さーやがいい』

『さーやのことで頭いっぱいだったから』

『さーや……めちゃくちゃ好き』


 遼を選んだ方がいい、そう思うのに浮かんでんるのは私を真っすぐに見て想いを伝えてくれる蒼で。私を見て嬉しそうに笑う顔が消えない。


「……沙彩?」


 キっと音を立ててブランコを止める遼。心配そうに私の顔を覗いた。私も止めた。ブランコは椅子と化す。


「……ごめん、遼」


 遼はだんだんと目を見開いていく。想像と違う結果だったからかもしれない。そりゃあ、私から未練じみた台詞やキスまでしといて断っているんだから驚くのも無理はない。


「……なんで? 俺のこと嫌い?」


 嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、蒼が消えてくれない。遼と付き合うなら、これを何とかしなくちゃいけないんだ。


「違……くて……」

「……まさかとは思うけど、あいつ?」

「え」

「……あいつなんだ」

「……」


 遼はブランコから降りて、私の前に来る。両手を鎖に手を置き、私の逃げ場がなくなる。


「蒼……だっけ…………沙彩、あいつのこと好きじゃないって言ったよな?」

「言った」

「だったらなんで……?」

「分からない。私は遼といた方がいいって分かってる。だけど、蒼のこと気になってる私がいる」

「……」

「タイプじゃないのに気になってる私がいる。おかしいよね」

「……」

「……」


 遠くでカラスが鳴く声がした。車が一台通り過ぎてゆく。


「じゃあ」

「……」

「キスしよう、沙彩」

「…………え?」

「俺とキスしよ」

「……なんで?」

「その想い、確かめよう。俺のことが好きならときめくし、あいつのことが好きなら拒否反応が出るんじゃね?」


 なんて提案だ。本当に好きな人を見極めるために遼とキスをするという。確かに、一時的な感情かどうかは分かるかもしれない。


「あんなやつのことなんか、忘れさせてやる」


 どうしよう! まだ決まってないのに。遼を都合よく使っていいのだろうか。後悔しないだろうか。どうしたらいいの!?


 私の答えは……


―――…


「蒼」

「……さーや」


 居心地悪そうに視線を泳がす蒼の肩を掴む。後ろにあったベッドに押し倒すと、蒼の臍当たりに馬乗りする。ベッドに沈む蒼を上から眺めると、両手をまとめて私の片手でベッドに押し付ける。


「さ……さーや?……!」


 肩から落ちてくる自分の髪の毛を空いてる手で後ろへはらうと、蒼の上半身に全体重をかけるように覆いかぶさった。


「さ! ……さーや!! どうしたの!?」


 動揺を隠せない蒼を置いてけぼりに顔を近づける。ピントが合わないくらいに接近すると、蒼の体が強張るのが分かった。緊張を解すようにそっと唇を重ねた。


「んっ……」


 漏れる蒼の声。何度も、何度も、角度を変えて押し付ける。唇の柔らかさや形を感じるように。


「んっ……ん……さーや……っ」


 初めて見る、蒼の気持ちよさそうな顔に胸が熱くなる。気持ちも高まってきて、溢れそうになる想いをそのまま蒼の唇にぶつけた。


 夢中でむさぼる。ちゅ……ちゅ……と音が蒼の部屋に鳴り続ける。


「はっ……あ。さーや……!」


 とろとろになっている蒼の大きな目。見たかった表情に口角を上げると、唇についている二つの混ざった液を舐めた。

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