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ワン 20

「ねぇ、ダーリン。そういえばさ~」

「なにそれ! おかしいね!! ハニー」


 恋人が私の横を通り過ぎてゆく。楽しそうで、幸せそうで、同じ時間を共有している。


 共有……体温を共有してた。蒼とリカは触れた。一度でも重なった。


 唇だけでなく体もそのうち重ねてしまうのではないか? 体温の共有どこじゃない。熱に溺れてお互いを激しく求めて……


 って!! 私は何を考えているんだ! せっかく外まで出たのに結局頭のごちゃごちゃが振り払えてない。蒼が誰とナニしようが私には関係ないじゃないか! 私に一目惚れしたってだけで付き合ってもないんだしエロに流されたっていいではないか!!


 蒼だって男だ。反応はするはず。いいかもと思うこともあるはず。もっとしたいって思うこともあるはず。


 いいじゃん。蒼とリカがそういうことになったら私は蒼から解放されるわけで。本来送りたかった生活が送れるようになる。素晴らしいことじゃないか。

 毎回脅されながら蒼に従うこともないし、スキンシップされたりキスされそうになったり襲われそうになったりすることもない。


 いいじゃん。最高じゃん。だったら、応援してあげるのもいいかもしれない。祝福してあげるのもいいかもしれない。


 なのに……何なのこのモヤモヤは! 消えろ!! なくなれ!!!


 こんな気持ちになることなんてないじゃないか。こんな気持ちにならなくてもいいはずじゃんか。なにが私をそうさせてる? 私は蒼のことなんてなんとも思ってないのに。思ってないはずだったのに。


 こんなのもう……蒼のことが好きみたいじゃん。嫉妬してるみたいじゃん。傷ついたみたいじゃん。


 なんなの。ありえないから。私は重いのやだし! しつこいし懲りないしベタベタしてくるし自己中だしストーカーだし!! 私の理想と全く違うんだけど!!!


 私は遼との恋のようでいたい。静かで、穏やかで、波なんて起こらない!


 違う。そうじゃない。混乱してるだけ。好き、と言ってくれて何度かデートをした相手が他の女とキスしたから動揺してるだけ。私のことすっごく好きそうだったから呆気に取られてるだけ。好きとかそういうんじゃない。一時的なもの! 時間が解決してくれる問題!!


 まだグルグルモヤモヤはしているけどそう結論付けると、少しすっきりした。


 意識を周りに向けるとすぐそばに公園があった。閑散としていて落ち着けそう。人もいないし、邪魔になることはないだろう。そう思って、公園の砂利を歩きながらブランコを目指した。


 少し錆びている鎖を掴み、腰を落ち着けた。足で漕ぐと上下に動き出す。振り子のような気分だった。


―――ピリピリピリ


 スマートフォンが鳴った。動きを止めて電話に出る。


「もしもし」


 私の声が寂しく響いていた。


「沙彩」

「遼! どうしたの」

「沙彩のことが気になって」

「え……」

「これから会えないか?」


 遼に今の場所を伝えると、ここに来ると言う。無心になりながら風を感じていると、公園の入り口から遼が入ってくるのが見えた。


 私に気づくと手を上げて白い歯を見せて笑った。砂利を蹴飛ばして駆け寄ってくる。


「待った?」

「待ってないよ」

「ふー……寒いな……」


 隣の開いているブランコに座った遼。体重を支える柱がミシっと音を立てた。


 私の漕ぐ感覚に合わせる遼。静かに漕ぎ始める遼。この距離感、雰囲気が遼だ。


「こんなところで何してたの?」

「考え事」

「何? ……もしかして俺のことを考えてたりした?」

「若干」

「……。え、マジで考えてたの? 冗談だったのに」

「マジで考えてた」

「……。俺に会いたかった?」

「うーん……それは微妙」

「微妙なんかい! いい意味で俺のこと考えてた?」

「……うん、そうだね」

「……。沙彩はさ……俺が沙彩と別れたこと引きずってるって言ったらどうする?」

「……」

「……」

「それは……」

「あの時……沙彩とバーに行った時に言われた言葉、俺も同じだった」


『………私たち、別れない世界線ってあったのかな』

『私は……遼と別れたくなかったよ』


「でもあの時は何も……」

「言えなかったんだ。なんて言ったらいいか分からなかったんだ」

「“俺もそう思ってる”だけでいいんだよ」

「そうだよな…ごめん」

「……」


 遼が私と別れたことを後悔していたなんて考えたこともなかった。就活やら就職やらで時間が無くなって別れた私たちだけど、その前に恋人って感じじゃなかったのも事実で。


「……キス、嬉しかった。沙彩とのキス、好きだったから」

「……キス……」

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