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ワン 15

「沙彩にはさっぱりした付き合いのが合ってる」

「喧嘩はやめて」

「……沙彩は好きじゃないんだろ?」

「うん」


 がっくりと肩を落とす蒼。嘘はつけない。


「片思いなら大人しくしとけ」


 蒼の肩に手を置いた遼。その手を勢いよく払いのける。遼の手が行き場所を失った。


「……友達って言葉に逃げてるくせに、偉そうにすんな」

「逃げてないけど? 事実、沙彩とは友達だし。な、沙彩?」

「……うん」

「友達の距離感じゃない」

「距離の取り方は人それぞれだろ。それに、じゃあ君は何なの?」

「…………は?」

「君は沙彩の何なの?」

「……」

「友達でもない、恋人でもない……知り合い? 顔見知り?」

「……それは……っ」

「距離の取り方、合ってる?」

「人それぞれなんじゃ?」

「俺と沙彩の友達の距離と、君と沙彩の知り合いの距離……どっちがバグってるかな?」

「……」


 黙った蒼を放置し、私と向き直る遼。私が見た時には爽やかな表情に戻っていた。


「沙彩。一緒にお昼食べない? そろそろ時間だろ?」

「あ……でも……」

「ダメ。」

「……蒼……」

「……ダメ。行かないで」


 弱弱しく話す蒼。さっきの遼に言われたことが堪えているのかもしれない。両手を強く握り絞めている。


「どうして君が答えるのかな? 沙彩に聞いているんだけど」

「さーや。そいつとご飯に行かないで」


 言葉は弱いが、瞳が強く私に語り掛けていた。行くな、と。行ってほしくない、と。

 その奥には、不安や選ばれない恐怖なんかもあるような気がする。


 私にはその不安や恐怖がよく理解できる。そういう恋愛をしてきてきたから。スることに飽きたらみんな去っていった。


「……沙彩、放っといて行こう。話したいことがあるんだ」

「…………!」


 がしっとワンピースを掴まれる。大きな目に膜が張る。今にも零れそうで、見ていられなかった。


「……ごめん、遼。蒼との約束が先だから」

「……そっか。じゃあ、また今度な」

「あ、上着……」

「やるよ。風邪、引くなよ」


 少し気を落としたような遼は、蒼を見ることなくこの場から立ち去って行った。遼の姿が見えなくなるまで、蒼は私のワンピースを握り続けた。


「さーや……」


 肩を震わせ、力なく抱き着いてくる。引き離す気になれず、蒼のふわふわした髪を撫でた。



―――…


 遼と別れた後、昼食を食べてからぶらぶらとお店を見て回る。蒼は一緒に探してくれるタイプらしく、私に似合うものがあると持ってきて合わせて見せた。

 帽子に服、靴にアクセサリー…いろんな私に変わることを蒼は楽しんでいた。


 私も蒼に似合うものを選んであげていたが、割とどれも似合ってしまうので途中から選ぶのをやめた。そうだ。嫉妬だ。悔しいのもあった。


「さーやって可愛い系も綺麗系も似合うね」


 蒼はそう言ってくれるけど、本当にそうだろうかと疑ってかかる。商品は可愛いけど、私に似合うものは少ないと思う。商品が悪いわけではない。


「こういうアクセサリーは? さーやってあんまりアクセサリー好きじゃない?」


 シンプルだけど、存在感のあるハートが輝くネックレスを私に当てる。かわいい。


「好きだけど、あまりつけないかな」

「ふーん。似合うのに」

「大切な人からもらったものならつけるかな」

「……ふーん」


 反対の通りに雑貨屋が見える。品揃えの多さに興味を惹かれてしまい、吸い込まれるように店内に入った。


「雑貨……欲しいものあるの?」

「いや特に。見るの好きなんだよね」

「じゃあ見よう!」


 置物にお皿、時計にアクセサリー…見ているだけで胸がときめく。飾りたいものはたくさんあるが、現実的に考えてあの部屋に多くは飾れない。


「僕もさーやみたいに写真飾ろうかな」

「……」


 そういえば、蒼の部屋には入ったことがなかった。いや、入らないようにしていたから当たり前なんだけど。どんな部屋なんだろう。割と部屋汚かったりして。


「どんな写真?」

「さーやとの写真」

「……」

「ずっと眺める」

「……」


 恋人だったら違和感のない会話だけど、蒼が言うと恐怖を感じるのはなぜだ? 変態の意味にも、狂気の意味にも聞こえる。


「さーや! さーや!! この黒のやつとラブリーなやつだったらどっちがいい?」

「私に聞いたらラブリーなやつになるよ」

「じゃあラブリーなやつ買ってくる。お揃いにする?」

「しない」

「二つ買ってくるね!」

「しないってば!!」


 都合の悪いことは聞かないモード発動! 無視してレジへもっていった。


 ほんと勝手なんだから……と呆れて近くのベンチへ座る。だいぶ歩いたからか、足が浮腫んでいた。足を揉む。少し楽になった気がする。


「さーや!!」


 袋を下げながらこちらに駆け寄ってくる蒼。勢いよく私の肩を掴みベンチの背に背中を預けさせた。


「何?」

「何? ……じゃないよ! 見えてるから!!」

「何が?」

「何がって……服の中の……」


 だんだん顔を赤くして手で顔を覆う蒼。思い返してみると、角度的に見えたかもしれない。正面からだったら。


「……ごめん」

「いや、ご馳走様でしただけど! 他の人に見られてたらどうするの! さーや、自覚して」

「……ごめん」

「いや~…見せてもらいましたよ! カップルさん!!」


 知らない人の声が混じってきたため、そちらに視線を移すと、大きなハットを被ったピエロのような派手な格好をしたおじさまが割り込んできていた。右手には“恋人募集”の文字が記載された看板をもっている。


「何を見たの!?」

「いいものを見せてもらいました!」

「さーや! ほら! 見ちゃった人いるじゃん!!」


 違うだろ。私の谷間の話じゃないから、絶対。


「あなた方、恋人同士ですね? 私の目に間違いはありません!!」

「そうです! よく分かりましたね!! さーやの服の中を見たのは許しがたいけど、おじさんいい人ですね」

「違います! 騙されないでください!!」

「まあまあ。落ち着いて。彼女さん、そんなに照れなくてもいいんですよ」

「照れてないです!」

「もっと見せつけてくれていいんですからね!?」

「さーやの胸はもう見せないから!!」


 私の胸元に手を当てて服の中を見えないようにする蒼。さりげなく触ってるのバレてるから!


「蒼は黙って!」


 手を叩いて落とす。心外だ、とでも言いたそうな表情をしてくる。

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