ワン 14
「で、でも……したことに後悔はない!」
「あ、そう。じゃあ一人でデートでもしてれば」
「一人じゃデートできないってば!! さーや!!」
「……」
電話を切ろうと耳から話す。すると、それでも届く声量がスマートフォンから聞こえた。
「さーやには分かると思う、僕の気持ち! さーやだって遼の許可なしにキスしたんでしょ!? 思いが積もれば、触れたいって思うはずだよ!!」
「……」
相手が嫌がってるのに襲うのは違うと思うがな! 言ってることは間違ってないけど、やり方がおかしいんだよな……。
「さーやが嫌だったなら謝るよ。さーやには嫌われたくない」
「……どこ行くの?」
「……え」
「用意するから待って」
「うん! 待ってる!!」
私も私で、押されたら断れない性格をどうにかした方がいいと思う。だから、今まで男性といい思いしてきてないのだろう。
私は、諦めた気持ちで蒼に指定された場所に向かった。
季節の変わり目で少し冷たい風が吹いていた。ゆるく巻いた髪が靡き、長袖の黒のロング丈ワンピースでちょうどいい温度だ。そこに、黒のパンプスとベージュの鞄でまとめた。
決して、前回ワンピースを喜んでもらえたからじゃない。決っっして!!
「さーや!!」
嬉しそうな表情をしながら草原を駆け回る子犬みたいに走ってくる蒼。跳ねるたびに髪が舞い上がるからそれが犬の毛みたいに見えた。
「待った!?」
「待ってないよ」
「ワンピース可愛いね! というか、いつも以上に可愛いね」
「はいはい、ありがと」
「僕は!? どう?!!」
蒼は灰色のパーカーに黒のスキニーパンツ、スニーカーというラフな格好だった。雰囲気にとても似合っていた。……言わないけど。
「かっこいいんじゃない? 知らないけど」
「かっこいい!? かっこいいって言った!?」
「待って。切り取らないで。知らないけどって言った」
「そっか。かっこいいって言われて嬉しいよ」
「話聞けや」
蒼はポジティブだなって感じがする。なんでも自分の都合がいいように捉えることができる。いいことだと思う。話を聞かないのはどうかと思うけど。
なんて。考えていると、私が蒼のことを見惚れているとでも思ったのか、急に真顔になり、徐々に瞼を閉じて顔を近づけてきた。どんだけキスしたいんだよ、と思いつつ、私は口角を上げた。
近づいてくる蒼。増す、キャラメルの香り。
「…………盗聴器どこにつけたの?」
「!?」
あと一秒あれば届いたであろう距離で問いかける。ぴたりと動きを止め、カっと目を見開いた蒼は私から視線を逸らす。
「どうなの?」
「ええ~と……」
「服や鞄にはないみたいなんだよね。もしかして部屋?」
「うーん……と」
何かに助けを求めるように視線を泳がす蒼。ショッピングモールの入り口からわらわらと出てきた野球部の団体を見つけると、指をさした。
「懐かしい!」
「……野球部だったの?」
「そう! 坊主だったよ」
「蒼が坊主!? いつ?」
「中学校」
「へ~! なんでやめちゃったの?」
にやりと笑う蒼。なんで笑う? 意味深な笑みに私は疑問を抱いた。
「……僕のことに興味でた?」
「世間話じゃん」
じりじりと蒼が迫ってくる。距離を保つようにするため後ろに下がると、背中がドアにぶつかった。
ドアに手をつく蒼。壁と蒼に挟まれた。
「もっと興味持って。夢中になって欲しい」
「……」
「僕なしじゃ生きられないくらいに」
「……」
―――ピリピリピリ
「あ、電話だ」
「……誰」
「んーと……。遼」
「でちゃダメ」
「……でも」
「沙彩」
私たちの目の前に遼が現れた。茶髪の短髪にカーキのジャケット、中にはシャツに、下はジーンズとブーツ姿だった。
爽やかに笑いながら手を上げて、こちらまで来る。蒼はその姿を捉えると睨みつけた。
「ここで会えると思わなかった。……デート?」
「違う! デートじゃない!!」
蒼と私は恋人に見えるらしい。ナンパ男には弟だって言われたけど、遼からしたら恋人に見えるらしい。
「……デートですが、なにか?」
挑発的な態度をとる蒼。天敵を相手しているみたいに見える。
「沙彩。彼は……?」
「あ、うん。例の連絡先を消した……」
「ああ。君が例の」
「……はじめまして。“遼”さん」
「……はじめまして」
「蒼っていうの」
「蒼くん。君は沙彩の何かな?」
「恋人です」
「違うから! 恋人じゃないから!!」
「……沙彩のこと好きなの?」
「大好きですが、あなたに関係ありますか?」
「関係あるね。沙彩のことだし」
「は?」
「沙彩とは専門からの付き合いでね。だから「……くしゅん!!」」
私の間抜けな声が辺りに響く。言い合いをやめた両者は、私をゆっくり見た。
「沙彩、寒い?」
「ちょっとね……冷えてきちゃったかも」
震える体を抱きしめるように腕を置くと、摩擦を起こすように摩る。それを見た遼はジャケットを脱ぎだし、私の背中から優しくかけた。
ふわっと遼の香りがした。柔軟剤の優しい香り。少しすーっとするような清涼感を受けた。
「え、悪いよ……遼」
「気にすんな。沙彩が風邪ひく方が大変だろ」
「ごめん……ありがとう」
「……」
蒼はそれを悔しそうな目で見ていた。そして、意を決したように口を開く。
「……さーやのことが好きなの?」
私から蒼へ視線を移した遼は、躊躇うことなく言った。
「好きだよ。友達として」
「友達なら邪魔しないで」
「邪魔はする。お前ら似合ってない」
「どこが。お似合いだし」




