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ワン 10

「彼氏いないならいいじゃん! 遊ぼうよ!!」

「いや…そういうわけには」

「なんで!? 楽しいよ! サキちゃんたちいたら盛り上がるよ」

「結構です」

「そんなこと言わずに」

「お断りします」

「ちょっとでいいからさ! 車に乗ろ!!」

「だから……!」

「彼氏いないんでしょ! 問題ないじゃ「“俺”が彼氏ですけど」」


 私の腕が引かれ、背中に温もりが当たる。ふわっと香る甘い香り。何度も聞いたテノールくらいの声。意外にごつごつしてる大きな手。


「彼氏? 君が?」


 ショウというらしい男は蒼の登場に一瞬たじろいだが、上から下までじっくり見てバカにしたような笑みを浮かべた。


「どう見ても弟でしょ」


弟! 姉弟とでも言いたいのか? 似てないけど、年齢的にはそう見えるかもしれない。わりと痛いところをつかれたかもね。


「彼氏だ」

「彼氏いないって言ってたよね」

「いないです」

「ほら~何嘘ついてるのかな? ボーヤ」

「嫌がることはすべきじゃない」


 あんたが言える立場じゃないけどな!! 私も散々嫌がったけど、辞めなかったよなお前!!


「弟は黙ってな」

「俺の女に手出すんじゃねぇ」


 すごい剣幕で威嚇する蒼。口を紡いだ男はしばらく蒼とにらみ合いをしていると……


「おい! 車が邪魔だ! どけろ!! 通れねぇだろうが!!」


 中年のおじさんに注意されて渋々視線を外し、窓を閉めて発車した。車の排気ガスが余韻を残していく。


「さーや! 大丈夫!?」


 心配そうに眉毛を下げている蒼は、顔を覗き込んでくる。私の顔を見てホッとすると、肩に手を置いて首筋らへんをくんくんし始めた。


「ちょっ……!」

「変な匂いが付いてないか確認中」

「蒼……! こんなところで!!」


 そんな私たちを真顔で眺めている未希が視界に入る。何か言うか、何か表現して! 真顔怖い!!


 蒼は首筋を一通り嗅ぐと、手の平から腕へと嗅いでくる。


「蒼!」


 二の腕までくると、脇にまで鼻を突っ込み出す。


「やめて!!」

「こらワンコ!」


 未希が蒼の首根っこを掴むと、引き剥がした。目をまん丸くして何が起きたか理解できないような表情の蒼。


「そこまでにしときな」

「……えー……」

「沙彩が嫌がってた」

「……」


 未希のおかげで何とか助かった。あとでお礼します! 大好きです、未希様!!


「…………蒼」

「……ハイ」

「助けてくれてありがとう」

「……さーや……」

「なんでここにいるの?」

「え?…………………たまたま通りかかって」

「ストーカーじゃないよね?」

「違うに決まってるじゃん!! 何言ってるのさーや!! もー!!」


 じっと見つめる。目が泳いでいる気がするが気のせいかな。


「さーや! サキって名前イカしてたよ!!」

「サンキュー! 機転が利いたよね」

「ナイスだった!!」

「蒼も彼氏役お疲れ様!」

「弟って言われちゃったけどね」

「まぁドンマイ!」

「……」


 私と蒼の会話を黙って聞いていた未希。その目つきは何かを見透かすかのようなものだった。


「……話は終わった?」

「はい」

「ハイ」

「沙彩と夕食食べに行く途中だったんだけど、あなたも行くの?」

「いえ! たまたま通りかかっただけなんで! ここで失礼します!!」

「そう。じゃあ気を付けてね」

「ハイ。……またね、さーや!」

「ばいばい」


 蒼と別れて、レストランへ向かう。だいぶ日が落ちてきてビルとビルの間からオレンジの光が漏れてくる。綺麗だった。一直線に差し込む光が。思わず見惚れる。


 未希のヒールの音と私の靴の音が重なって聞こえる。未希とは無理に歩幅を合わせなくても自然と合っているんだ。


「“アレ”、沙彩の危機を嗅ぎつけるなんて番犬にもなるし飼えば?」

「冗談じゃない! やだよ!!」

「外見もやってることも、もろ犬って感じだったね、ウケる」

「ウケません」


 未希は蒼の様子を思い出したのか、吹き出しながら笑う。くしゃっと笑う表情に肩を落とす。


「だいたいさ、あんた気づいてないんだろうけど、ストーカーされてんじゃん」

「え? ……してないって言ってたよ。目は泳いでたけど」

「嘘に決まってるじゃん。だって“サキって名前イカしてたよ”って言ってたじゃん」

「……それが?」

「はぁ。あんたバカ? ……サキって名乗ってたのは犬が登場する前のことだよ」

「…………!」

「……」

「確かに」

「つまり、犬はこの場所も知ってたし、会話も聞いてたってことになる。ストーカーじゃん?」

「今の会話も聞いてるってこと!?」

「あんた、盗聴器でも仕掛けられてるんじゃない?」

「はー? やだ~あり得ない」


 服に仕込まれていないか、確認のために全身を触る。服の柔らかい感覚はするけど、装置みたいな感覚はしなかった。もしかして鞄の中? スマホ? どこ~!?


「とんでもないのに好かれたね、沙彩」


 未希は、私の肩に手を乗せると何度かポンポンと励ますように叩いた。

 そんな励ましいらないから助けて! 未希!!


「相当重そうで草」

「勘弁してよ~」

「でも助けてくれたのはカッコよかったね。嬉しかったでしょ、沙彩?」

「……助かったのは事実」

「お礼でもしてあげたら?」

「本気で言ってんの!? ストーカーだよ!? 盗聴器だよ?!」

「うん、まぁ…そうね」

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