冥
よろしくお願いします。
ここは冥府。人によっては黄泉の国と言ったりするあの世とこの世の境にある世界
「冥ー!!」
「わーん!ごめんなさいぃぃ!」
そんな世界でお迎え番をしている私は今日もミスをして獄卒のお兄様に怒られている
私たちお迎え番は亡くなった人間や動物の魂を回収して冥府に持っていく係、よく死神とも呼ばれている
お兄様方獄卒はその持ってきた魂を閻魔様達の判断で地獄や天国、輪廻の輪に連れていく係
お迎え番1人に対して獄卒が1人着くのだ。だからお迎え番の失敗はそのまま獄卒の失敗に繋がる
つまり私の担当である鬼谷さんは私の失敗回数分上に怒られる
「今回で何度目だ!お前の失敗で上に頭下げる俺の苦労わかってんのか!」
「ろ、66回目です…お疲れ様です」
「そうじゃねーよバカタレ!」
スパァンと頭をはたくまでが通例。地味に痛い
「ったく…で?今回は何を間違えた。男だと思ったら女だったか」
「お隣のおうちのワンちゃんです…」
「だからやけにちっせぇ魂だと思ったよ!どうやったら犬と人間間違えんだよ!!」
「だってマリーって横文字、日本じゃあワンちゃんにつくと思うじゃないですか!」
「最近のキラキラネーム舐めんじゃねぇぞ」
「はい…学習しました…」
「随分と遅い学習だねぇ冥くん」
「ごっ獄卒長!?」
「お疲れ様です獄卒長」
突然現れた背の高い男は鬼谷さんの上司で冥府の獄卒全員をまとめている獄卒の長。
いつもニコニコしていて語尾が伸びる癖があるから優しそうに見えるが、そんなに優しくないのは新人以外みんな知っている
「誰にでもミスはあるが冥くんのミスはかなり目立っているねぇ。最終的には回収できているけど、そろそろしっかりしてもらわないと此方としても考えがあるんだなぁ」
「はぅっ」
「待ってください獄卒長、確かに冥はドン臭くてトロくてミスしかしないお荷物ですが図太さは誰にも負けてません。もう少し待っていただけませんか」
「鬼谷さんそれ褒めてない…」
「ははは、鬼谷君は冥くんの保護者のようだねぇ」
「どちらかと言うと飼い主の気分です」
「ぐ、ぐぅのねも出ない…」
「ふむ、そうか、では冥くんにひとつ課題を与えよう。これが達成されたら今までのことは目を瞑ろうかなぁ」
「!本当ですか!」
「いつも真面目に仕事をしてくれている鬼谷君に免じてね」
「鬼谷さぁぁぁん」
「暑苦しい!離れろ!!」
抱きつくとまた頭を軽くはたかれた。いつも失敗してすみません
「それで課題って…」
「とある日本人の17歳の子供が居るんだけど、死亡年齢が曖昧な上に死因が閻魔帳に記載がないんだぁ」
全ての生物の死因とその年齢は閻魔が手元に持っている書類、【閻魔帳】に必ず記載してある。
そのため死因が不明で死亡年齢も曖昧というのは異例中の異例だというのは冥でも分かる
「分からない?そんなことあるんですか?」
「少なくとも私が働いていた数千年の間はそんな事無かったかなぁ」
「それってほぼ初期…」
「冥、黙れ」
鬼谷さんに上唇と下唇を指でギュッと挟まれて強制的に話せなくなった
その様子を見て獄卒長は「仲良いねぇ」と朗らかに笑っている
「年齢も死因も不明な状態でこちらとしては手に余る案件で誰もやりたがらない」
「それでこいつですか」
「そうだねぇ、冥くんはよく間違えた魂を持ってくるけど、魂を回収するタイミングは必ず49日以内ではあるんだよね」
魂とは入れ物があるからこそ、そこに魂として存在する
入れ物としての機能が失う…つまり死んだ時点で魂は次の入れ物を探しこの世に漂う
探した結果運良く見つかれば小さな子供によくある前世の記憶を持って新たに生を受ける
その引っ越しの期限が四十九日
それを超えてしまうと魂は孤立化し、次第に意思を持ち始め本来入れ物では無い入れ物と融合し始める。そして出来たのが悪霊や怪異である
『トイレ』の花子さん、『人形』のメリーさんなどがその代表格で、そこまでくると魂を切り離せない為回収などできない。
それらを放置すると現世に影響し、本来その時に死ぬはずのない生き物が死に、閻魔帳に狂いが起こる
だから魂は49日以内に回収しなくてはならないのだ
お迎え番は死亡年齢を知っていても1つの魂を回収するのに付きまとって1年もかけるほど暇では無い。定期的に様子を見てタイミングが合えば魂が離れた瞬間に回収、すでに離れていたら手当り次第探すというなんとも脳筋なシステムでやってきている
「誰しも一度は回収しきれなくて悪霊化させるのに冥くんは回収し直しているにもかかわらず49日以内ではあるなんて不思議だよねぇ」
ちなみに獄卒は融合した魂達を消滅させる戦闘面での役目も担ってる。まぁつまり『テメェの相棒のケツはテメェでふけ』
そんな面倒なこと絶対嫌な獄卒。死ぬ気でお迎え番の尻を叩いてお迎え番も怒られるのは嫌だから死ぬ気で回収する
「年齢が曖昧っていうのはどういうことですか?」
「それが日によって年齢が変わるらしいんだよ。25歳の時もあれば150歳なんてありえない時もある。ある種のホラーだよねぇ」
はっはっはなんて笑っているが正直笑えない
「とにかくその男の子の魂を回収することが出来れば合格。今までの失敗は流してあげる」
「で、出来なかったら…?」
獄卒長は笑顔を絶やさないまま残酷なことを告げた
「2人とも解雇だねぇ」
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「いいか、冥、マジで死ぬ気で回収しろ。いいな?お前のヘマで俺が解雇されるなんて真っ平御免だ。もし出来なかったら日の目見られねぇようにするからな」
「無理です鬼谷さん代わって下さいぃ!」
「べそべそすんな!せめてもの温情で他の仕事はパスしてもらってんだから必ずやり遂げろ!」
「私には荷が重すぎるぅ」
鬼谷の脅しという名の激励を背に冥は泣く泣く人間界へ降りた────が、
「異界の勇者よ!魔王を倒しこの国を救ってくれ!」
「は?」
石造りの建物内、広い床には円形の模様が描かれ、その上に冥と日本の学生服を着た青少年がペタリと直に座っている
そして青少年と冥は互いを見合う。更に冥は顔を青くして叫んだ
「な、なんですかここはー!!」