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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
終章

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終章(4)

「いいえ、ミツハさま。私はこの命が尽きるまで、ミツハさまのお傍に居たいのです」


「新菜……」


「きっと私は、父との愛情のない母の子として生まれた時から、ミツハさまの許へ来る運命だったのだと思います。そう思うと、父が贄として私を追いやったのも、結果としては私をミツハさまに繋いでくれた……。父には感謝をしなければならないのかもしれません」


新菜がそう言うと、ミツハは新菜を抱き上げて笑った。


「きゃっ」


「ははっ。そう思える君が凄いよ。私は君という巫を巫女に立ててこなかったことを、未だ怒っているというのに」


抱き上げられて見下ろすミツハの瞳に新菜が映っている。とくん、と新菜の心臓が跳ねた。


「新菜。君が居れば他には何もいらない。君が今までの人生を忘れられるくらい大事にする。約束するよ。私の隣で笑っていてくれ」


「私もミツハさまがつつがなくお過ごしになれるよう、努めますね」


「ははっ。君が居れば百人力だ」


新菜を抱き上げたまま、ミツハがその場でくるりと回る。ミツハの喜びに呼応して、池から巻き上げられた水しぶきが新菜の周りをまわった。いとおしそうに見上げられて、胸が痺れて溢れるくらいに嬉しい。


幸せを、安寧を、伴侶を得た。何もかも、家に居た頃は思いもしなかったことだ。ミツハが叶えてくれた。繋いでくれた。願いを持たせてくれた。この感動を言葉にするなら。


「ミツハさま、大好きです」


きゅっとミツハの首に抱き付いてそう言うと、抱き締めていた腕に力がこもった。


「私も、君だけを愛しているよ、新菜」


腕を緩めてミツハの目を見る。微笑んでやさしい曲線に縁どられた、新菜だけを見つめる瞳。


背を支えている腕に力がこもって、ミツハの顔が近づく。うっとりと目を閉じたら、唇にやさしい温度が触れた。胸を満たす幸福の水に酔いしれていると、不意に唇が離れて額を合わせられた。


「君に、こうして触れたかった……」


囁く言葉に満たされる。


「ミツハさま……」


「君は私に敬服の念しか抱いていなかっただろう? 君が私に恋情を持ってくれるまでには、もっと時間がかかると思っていた」


庇護によるやさしさを感じ、安堵していた新菜に焦れていたという。


「ただ、君は私の許へ来て、初めて感情を持ったばかりなのだと知っていたから、待てた。しかしもう待たないよ。今まで私が耐えた分、愛されてくれ」


そういってまた唇を奪う。何度も繰り返されるそれに身も心もとろけてしまいそうになって、漸く新菜は解放された。


「私の心は、ミツハさまにお預けいたします。未来永劫、ミツハさまのお傍に……」


「新菜……。もういっときだって離すものか。私の希望。未来。命。君は私の全てだ」


そう言ってミツハは何度目かの口づけを、新菜にした。新菜もミツハの背に腕を回し、しっかりと抱き付いた。


「私に愛されて良かったと思うか、新菜」


微笑んだままのミツハが、問う。新菜の答えなんて、分かっているだろうに。それでも。


「はい、ミツハさま。身に余る光栄です」


「なにを言う。君の身の丈にはまだまだ足りない。君が私にしてくれたこと以上の幸せを、私は君に帰すからな」


覚悟しておけ。


そう言って笑うミツハに、つられて笑ってしまう。


笑いは天に吸い込まれて。


いつまでもいつまでも続いた。






きらきらと水が舞う。心が溶ける。


こんな幸せを、私は知らなかった。知るのがミツハの許で良かったと思う。






このまま溺れるなら、ミツハの住まう水が良い。


ミツハの懐であたたかく包まれて。


その腕の中で見る夢は、きっと幸せ色の夢に違いなかった――――。






<完>




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