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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
終章

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終章(3)



祈りの声が聞こえる。あの湖のはたで、神事が行われていた。


苔むした祠は真新しい社に作り替えられ、天雨家の新たな当主として立った泰三の弟が今日、その社を前に勧請の神事を行っている。ミツハは社に祀り直され、祈りの言葉に力を得ていた。水宮の庭の奥の池にはきらきらと光る泡がポコポコと沸きあがり、池を見つめていたミツハの体に吸い込まれていく。みなぎっていく力を感じてミツハが静かに目を閉じ、新菜はミツハのそばに立った。


ミツハの声を聴く神事を行った後に攫われるようにして水宮へ連れてこられた新菜は、言霊の力を使ったことにより、記憶はおろか、三日三晩起き上がることが出来ない程、体力を消耗した。ミツハが頬に口づけてきた時は正直もう、体力的に抵抗のしようがなく、そのまま自室でミツハに看病されるはめになった。ミツハはかいがいしく新菜の世話を焼き、以前黒い渦を祓った疲労で倒れた時と同じく、やはり新菜を羞恥させた。


いや、今回の方が恥ずかしさは上回っていた。なにせミツハはたがが外れたかと思うほど、愛を囁き続けたのだ。愛され慣れていない新菜はその言葉一つ一つにいちいち狼狽え、赤面し、恐縮するという具合で、体力の回復が遅れたのは、もしかしてミツハの愛情攻撃の所為ではないかとチコが指摘したくらいだ。


そんなこんなもあって、現在はやっと着衣を整え、宮を歩き回ることが出来るまでに回復した。あのままミツハの愛情攻撃が続いていたらどうだったか分からないが、しかしミツハから作られる粥などの食事が新菜を癒したことも、また事実だった。


そんな風に使ってしまった神力を回復させるのに役立ったのが、この度の社の創建だった。恭しく祀られた新しい社には多くの地の民が祈りに駆けつけ、清き祈りを奥の池に届けていた。輝く祈りの声を吸い込むミツハを隣に見て、自分の所為でミツハが神力を使ってしまったという責の念に駆られていた新菜は、ミツハに力が戻って本当に良かった、と安堵した。


「アマサトたちの所にも、祈りの声が増えているようだ。君が言霊の力で地の民に促してくれたからだろう。天神を代表して感謝するよ、新菜。君は我々を救ってくれた」


新菜の目を見て微笑む蒼の瞳には力がこもっている。神と地の民を繋ぐ宮巫女としての役割を果たせたのだと実感できて嬉しいばかりか、謝意の言葉までもらってしまって、新菜は恐縮した。


「アマサトさまにも気付きを与えて頂きました。あの時のアマサトさまのご助言がなかったら、私はいつまで経ってもミツハさまと契約できなかったかもしれない……」


宮奥の空に浮かぶ陽を見上げて言う新菜の肩を、ミツハがやさしく抱く。


「それを言ったら、三年の年月を経て、君があの湖の傍に戻って来てくれたからこそ、私たちは契約出来たのだと思うよ。あの時君が私を呼ばずに湖に沈んでも、私は君を助けられなかったし、そもそも君があの場所に来てくれなければすべては始まらなかった。私はね、新菜。あの時、湖に身を賭した君を腕に捕らえることが出来た時に、希望を捕らえたと思ったんだよ。その希望が叶い、力が戻り、君という花嫁も迎えることが出来た私は、この上ない果報者だと思っている。創世の時代に花嫁を迎えた神でもこんな幸せは得られなかったと思うよ」


ミツハが新菜の頭にほおずりし、大事そうに胸の中に抱きこまれると、焦りとか恥ずかしさだけではなく、心臓が動悸する。腕の中に囲われているからか、頬が熱いような気がする。もしかして赤くなっているのだろうか。熱を出した時にミツハに頬が赤いと言われたけれど、今は熱などないし、だとしたら、これこそが天雨家の使用人たちが『恋』について語った時の、頬を赤らめる、というやつの事なのだろうか。ミツハが言葉を続ける。


「君はどうだ。私と一緒で不安はないか。私が作ったチコや命を落として水宮に来た鯉黒と違って、君には下界での生はまだ多くある。それでも私の傍に居てくれるか」


ミツハが腕の中の新菜をじっと見つめる。このやさしい人を少しも不安にさせたくなくて、新菜はきっぱりと言いきった。


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