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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
終章

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終章(2)



「駄目です、ミツハさま! まだ記憶を封じておりません!」


舞宮での契約の後、力を使い果たしてその場にくずおれた新菜は、ミツハによって水宮へ連れてこられてしまった。出迎えてくれたチコと鯉黒には申し訳ないが、記憶を封じない限りミツハの傍には居られないし、また、封じてもいつ綻ぶか分からない。自分を脅かす存在の新菜を傍に置きたいと思う、ミツハの気持ちが分からなかった。


……というか、言霊の力を使ったのに、新菜の記憶からは舞宮での一連の記憶が抜けていない。ミツハの新しい名前だって覚えているし、その前に鈴花が言い放った言葉や新菜を庇ってくれたナキサワとの会話だって覚えている。一体これは……?


「ミツハさま、いよいよ駄目です、私……。だって、言霊を使ったのに、何もかも覚えているんです……。こんなことでは、記憶を封じても封じられない。ミツハさまのお傍に居ることは無理です……」


自分の記憶に涙ながらに青くなっている新菜に、ミツハは穏やかに微笑みかけた。


「案ずるな、新菜。謎を解き明かしてあげよう。まず君は、水宮へ来てから毎日私の神力で作った食事を食べていた。覚えているね?」


「は、……はい……」


頷く新菜に、よろしい、とミツハが続ける。


「神力は元を正せば私の体の一部だ。私の体の一部……、記憶が、天神のなかで共有されていることは覚えているかい?」


記憶が……? ああ、アマサトが言っていたことか。覚えている。


「人の体も、食べたもので出来ているだろう。新菜はここに来てからずっと天神(私)の神力を食べていた。それはつまり、君の体が天神で作られていると言ってもいいことだ。そして君が失った記憶は私たちの中で共有されている。あの記憶は、今は君の頭の中にはないかもしれないが、思い出そうとするとき、私たちの記憶の中から読み取ることが出来るんだよ。それで鮮明に思い出せるんだ」


そもそも、君を神嫁に迎えるために始めたことだったけどね、とミツハは笑う。


「創世の時代のように、人のままで神嫁になることも可能だが、私は君以外娶らないと決めたんだ。だから私と同じ時間を生きて欲しかった。……これは完全に私の利己による行動なんだけどね」


それで食事以外にも食べさせることにしたのだという。


「で……っ、でもミツハさまは、そのお役目の為に永らえるためと、私が言霊の力を悪用しないよう管理するために、お傍に置かれたのではないのですか……?」


未だ信じられない新菜にミツハは、君ね、と眉間にしわを寄せてそれを指で押さえた。


「自我が操られて意識が遠のく中でも君と契約したいと思った、私の気持ちが分からないかい?」


分からないと言ったら拗ねる。


そう宣言してミツハは新菜の答えを待った。深く蒼い瞳に見つめられると、心臓が走り出して止まらない。


「……私、ミツハさまが思うような、我欲のない人間ではございません」


「良いじゃないか」


「あの時、鈴花ではなく、私と契約して欲しいって思ってしまいましたし……」


「そう願ったのは、私もだよ」


「その上、ミツハさまと同じ寿命を頂いてしまったら、ミツハさまが嫌だとおっしゃっても地上に戻らないかも……」


「嫌だと言わなければいいんだろう?」


「それにそれに……」


なおも言い募ろうとする新菜を、ああ、わかったわかった、とミツハはやさしく抱きしめた。


「君が生きてきた時間を、直ぐに忘れろとは言わないよ。でもその代わり、それ以上の時間をかけて、私に愛されて良かったと思わせる。それでは駄目なのかい?」


あ、愛!? 自分が!? ミツハに!?


与えられ慣れていない新菜はその場で固まった。やれやれとミツハがやさしい苦笑を漏らす。


「いつか、ね。思わせてあげるよ。私に会えて、愛されて良かったと」


私がそう思っているのだからね。


そう言ってミツハが新菜の頬に口づける。


やわらかくてやさしい温度に、新菜の心はほろほろと溶けていきそうだった。



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