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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
名づけの巫女

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名づけの巫女(9)


『新菜殿! 聞こえるか、新菜殿!』


庵に閉じ込められた新菜は、外から鯉黒の声が聞こえるのに気づいた。


「鯉黒さん!? どこですか? どうして地上こちらに!?」


『説明は後だ。ミツハさまが苦しみながら地上に降りられた。この荒れた空を見るに、ミツハさまは相当お苦しみだ。ミツハさまが荒魂に落ちる前にお救いせねばならん。新菜殿が救って差し上げてはくれまいか』


切迫した緊張感を醸す鯉黒の言葉に、新菜は息をのむ。


「で、でも、ここにはミツハさまを祀る社も祠もありません。どうすれば……」


『庵の中に水はないか。この井戸水でも水は元を辿ればミツハさまのご厚情のたまものだ』


鯉黒の言葉に新菜は庵の中を見渡すが、井戸水は結界の外で、水と呼べるものがない。


(どうしよう……。でも、ミツハさまをお助けしないと……)


その時、着ていた雨の衣が手に触れた。そうだ、これも元を辿ればミツハが宮奥で紡いだ雨の糸から出来ている。


「雨の衣でも良いのでしょうか……。それなら、今着ております」


『十分だ。頼む、俺を救ってくれたように、ミツハさまをお救いしてくれ』


ミツハを、救う。


それは新菜がミツハに会って、最初に決めたことだった。自分にしか出来ないことなら、やり遂げたい。


「わかりました、やってみます」


新菜は立ち上がって深呼吸をして気持ちを落ち着けると、身に着けていた雨の衣をそっと撫でた。やさしいミツハが荒魂に堕ちるようなことがあってはならない。


目を閉じて静かに気持ちを集中させる。想うのは穏やかに微笑んでくれたミツハだった。




ひふみ 

よいむなや 

こともちろらね

しきる

ゆゐつわぬ 

そをたはくめか

うおえ

にさりへて 

のます

あせゑほれけ




窓の外の稲光はまだ止まない。新菜はもう一度唄った。




ひふみ 

よいむなや 

こともちろらね




すると庵の外でドオン、という大きな音がし、地震かと思う程、床が大きく揺れた。


「……っ!?」


窓の外を見ると、もうもうと立ち上がった土煙の中、銀の龍が横たわり、苦しそうに体をばたつかせていた。


「ミツハさま!」


思わず庵から飛び出そうとして、しかしナキサワの壁に阻まれた。しかし龍の目が開き、一喝咆哮すると、外界と庵の中を隔てていた壁はパリンと弾け飛んだ。結界の破片があたり一面に飛んで、その一つが新菜に向かって飛んだ。その時。


「ぐう!」


「……っ!? ナキサワさま!?」


破片を体で受け止めたのは、ナキサワだった。ナキサワは己の手で体に刺さった破片を抜き取ると、それを握りつぶした。


「ナキサワさま!」


「すまない、新菜さん……。鱗珠をヤマツミさまに奪われてしまった……。ミツハさまのお苦しみは、鈴花の祈りとヤマツミさまの声がミツハさまに直接届いているからだ……」


『忌々しい……。私を操れるなどと思うな……!』


ミツハが咆哮すると、遠くに大きないかずちが落ちた。雷鳴はドオンと新菜の耳にも大きく届き、ミツハが怒っていることが分かった。


「ミツハさま、ナキサワさまも雨がないことを憂いておいででした。神の命を握る力を持つ私などに構わず、鈴花と契約してください……っ」


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