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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
名づけの巫女

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名づけの巫女(5)


新菜は天雨家からほど近い場所の庵を宛がわれ、ひとまずそこに身を寄せた。しんとした粗末な庵は新菜に程よくなじみ、雨の衣から香るミツハを感じながら、こういうところでひっそり一生を終えるのもいいかもしれないと思う。


距離でも取らないと、欲深い人間である自分は、際限なくミツハを求めてしまいそうだから。


ミツハの見立てを裏切りたくなかったから。


自分は、ミツハと約束をした時から遠い所へ来てしまった、と新菜は思う。あの時はただひたすら、ミツハの役に立ちたい一心だったのに。


神さまに向かうべき巫女として失格だ。


だからこそ。


ミツハの思い込みを、正してやらねばならない。新菜に向ける気持ちは慈愛以外のなにものでもないと自身で口にすれば、流石のミツハも理解もするだろう。


「……ふ……っ」


気が付くと、涙がこぼれる。要らないと言われるのには、慣れていたつもりなのに。


(駄目だわ。明日、巫女舞をするんだから、もっとしゃんとしなきゃ……)


女々しい涙なんて洗い流してしまおう。そう思って井戸へ水を汲みに行く。釣瓶つるべを引き上げて桶に水を汲めば、ぽっかり浮かんだ月が、新菜の背後に映っていた。それは初めて水宮へ行った夜に見た月の色にも似ていて、やはり涙がこぼれてしまう。


ぱたぱたと桶の水に涙を弾ませていると、ふと気配を感じた。見るとナキサワが井戸に腰かけてそこに居た。


「……ナキサワさま……」


「その涙はミツハさまの所為?」


苦笑したナキサワは新菜の頬を零れる涙を指で拭った。


「いいえいいえ。ただ、自分の愚かさを嘆いているのです」


「人の恋情を愚かだとは、僕は思わないな。恋する人は色鮮やかだ。たとえそれが実らぬ恋でも、心の色は鮮やかな緋色をしている。人の間に恋情がなかったら、命を繋げない。尊ぶべき赤だよ」


ナキサワは真剣な表情で新菜の恋を応援してくれる。一人じゃないことが嬉しかった。


「そして、同じ赤が僕の心にも色づいている」


ナキサワは口許に微笑みを浮かべて胸に手を当てると、新菜をひたと見た。


「僕に与えられてきたのは信仰だけだったからね。『やさしさ』に触れたのはあの時が初めてだった」


あの時とは、新菜がナキサワに手拭いを持って行った時のことだろうか。水がさざめくように波立つナキサワの目を見ていると、深い井戸の底に引き込まれるようだった。


「新菜さん。僕の巫女姫になってくれないだろうか」


見つめられたまま、新菜は動けなかった。ミツハとさえ契約できない自分が、ナキサワの……?


「す……、鈴花はどうなさるのです……。鈴花はナキサワさまと契約して長かったはず……」


「君は恋をした相手以外と結ばれたいと思うかい?」


「れ、恋情と契約は、無関係なのでは……」


新菜の戸惑いにナキサワは言った。


「契約は巫女との間に結ぶ誓いだ。君も巫女の素質を持っているんだろう? 誓いを、自分の気持ちが向かう相手と結びたいと思うのは、間違っているかな」


ナキサワの言葉になんと返事をしたらいいのか分からない。ただ。


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