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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
心と心

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心と心(11)

永らえる為。


命を、永らえる為。


それは、ミツハが最初に新菜に望んだこと。


「……、……っ」


さあ、と頭に冷水を掛けられたように平静になっていく。そもそもミツハにとって一番大事なのは、まずその身を途絶えさせないこと。信心が薄くなり、その力が危うくなり、それを助ける手立てを新菜がした。それが最初。それが全て。


何を、勘違いしたのだろう。ミツハの腕がやさしかったなど、当たり前のこと。


(だって、神さまなんだもの……)


人の慈悲を与えるのは息をするがごとく、神にとっては自然な事。それは裏切られてもなお、地の民を思うミツハを見れば分かる。地の民の為に見聞きしたことを共有し、万事うまく行くように見守っているアマサトをはじめとした、あとの三柱にもそれが言える。


生き永らえれば、新しい巫女と契約を結び、使命を果たせる。新菜は名前を思い出せば、それでよい。


それだけのこと。それだけのことだ。


それなのに。


(どうして、最初から分かっていたことが、こんなに苦しいの……)


胸が苦しいと。


振り向いてもらえないことを思うだけで胸が苦しいのだと、使用人たちは言っていた。


今ならわかる。


新菜は振り向いて欲しかったのだ。ミツハに。


ミツハさま、ミツハさま、ミツハさま!!


心が叫ぶ。苦しい。息も出来ない。


痛い胸をぎゅっと押さえて、新菜はその場を後にした。廊下に襖の閉まる音がして、チコが廊下を覗き見る。誰もいない、真っ暗な廊下。


「誰か起きていたのか」


「いえ、気のせいだったようです。それよりミツハさま」


「そう怖い顔をするな、チコ。お前の見立ては多少間違っているぞ」


新菜は自分を認めてくれる人が欲しいだけだ。間違っても、今ミツハが胸に抱えているこの感情のようなものではない。

嵐が吹き荒れたかと思った。自分の中に、嵐が吹き乱れたのだ。


新菜が涙した時。家族に罵倒され、その身をすくめた時。確かにミツハの中で感情が荒れた。


穏やかに過ごす日々だった。新菜を知るまでは、日々使命に努め、地の民を見守るだけの日々だった。地の民からの信心が薄れゆく中で、このまま天神は消えゆくのかと思った。そんな時、祈りのうたが聞こえたのだ。


湖の傍に新菜が居た。彼女が偶然あの祠にたどり着いた時、祈りの清い心がその時のミツハを救ったのだ。


新菜はぼろぼろの身なりをしながらも、祠を慰めるようにうつくしい唄を歌ってくれた。新菜の唄は聞き心地が良く、心に染みた。心に染みる、なんていう感情があったのを、この時初めて知ったのだ。


ミツハには祈りが足りなかった。偶然訪れた新菜のたった一回の祈りだけでなく、もっと多くの力が必要だった。このまま消えたら雨はどうなる。地の民はどうなる。そう危惧していたところへ、新菜のうたが染みた。


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