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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
心と心

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心と心(4)

「君には具合が悪そうに見えたのだろうね。大丈夫かと気遣ってくれたよ。手を差し伸べて、握ってくれたんだ、私の手を。そうしたら、『触れますね』と言って微笑んだんだ」


触れますね? どういう事だろう。


「人ではない、という事をどこかで分かっていたのかもしれないよ、君は。でなければ、そこに居る人間に『触れますね』とは言わないだろう? そもそも君が私を見つけた時、私は姿を現したつもりはなかったのだからね」


成程、そういう事か。


ミツハは懐かしい、と言うより辛い、という目で、おそらく過去の新菜と手を握り合った場所を見た。


「……だから、君に……、私の命を託してしまったんだ……」


不安と後悔が入り混じった表情……。


「……後悔しておられるのですか……? 私に……、名づけを依頼したことを……」


どきん、どきん、と胸が鳴る。否定され続ける人生だった。ここでも否定されたら……?


「いや。……君にしか頼めないと思った。だからこそ、頼んだんだ」


でも。


「……でも、ミツハさま、……お辛そうです……」


自分が安請け合いしたことが悪かったのか。そう思った時にミツハはぱっと新菜の手を握った。まっすぐに自分を見つめるまなざし。新菜しか見ていない、真摯な蒼の瞳。


今までそんな風にミツハに射抜かれたことがなかった新菜は、大きな動悸を鳴らした。


「君は辛くないか」


「え?」


「私は、自分が辛いより、君が辛い方が堪える。君はどうだ。私の名を負った責は辛くはないか」


ああ、この人は。自分を蔑ろにする人間に、それでも寄り添おうとした人だった。自分が辛いなどとは思えないのだろう。それが神というものなのか。であれば。新菜はミツハの手をぎゅっと握り返した。


「ミツハさま。私は最初に申し上げた通り、ミツハさまに巫としてお役目を頂いて嬉しいのです。辛いなどと思いません」


新菜のしっかりとした言葉に、ミツハは安堵したようだった。そうか、と言ってほっとした表情を浮かべる。


「……でも、今のお話をお聞きしても、頭には身を投げた時の記憶しか思い浮かばないのです……。お役に立てる日が本当に来るか、私は少し不安です……」


こんなに手掛かりを貰って尚、ちらりとも三年前のミツハとの邂逅を思い出さないのだ。本当にミツハの名を思い出して、巫女となれるのかと不安がよぎる。その不安を拭い去ってくれたのは、ミツハだった。


「人の子の記憶に絶対はない。今は強固に鍵がかかっているかもしれないが、いつかその鍵が緩むことがあるだろう。無理に思い出したりしなくても、君が君のままで思い出してくれたら、それで良い」


ミツハが新菜を見るまなざしがやさしい。


(私が私のままで……)


それは今まで背負おうとしてきた全てのものを新菜から取り去ってくれる言葉だった。


自分には価値がないと思っていた。下働きのように働いてもなお満足な働きが出来ず、贄の役目を命じられても贄となれず、巫として使った力のことも思い出せない。こんな不出来な自分は何かを負うことでしか、その価値を見出せないのだと思っていた。


けど、ミツハはそのままでいいと言う。


心の澱となっていた重たいしこりを取り払ってもらったようで、目の前が拓けた。


「……、……っ」


ぽろり、と涙がこぼれる。まるで舞を認めてもらった時と同じだった。嬉しい、と心の中が満たされる。この人に認めてもらって嬉しいと、心が歓喜している。


「ああ、泣くな……。君に泣かれるのが、やはり一番つらい」


ミツハはそう言って涙をこぼす新菜をそっと抱き締めた。


やさしい抱擁……。この人の心を表すような、そんな抱擁だった。


あたたかいと感じる、ミツハの体温。その胸に、零れて止まない涙を預けてしまいたかった。


「君がいくら泣いても受け止める。だから思いっきり泣くと良い」


胸に寄せた新菜の髪にほおずりしてミツハが言う。


神さまの言葉は、新菜にやさしすぎて安堵してしまう。涙が止まらなかった。


ミツハはずっと新菜を抱き締めてくれていた……。


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