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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
姦計を祓う

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姦計を祓う(8)


真っ黒な夜の空の許に赤々と灯る松明の火が映る池のおもてを覗き込んだ村人たちは、互いに娘が沈んだことを確認し合っていた。


「これで雨が降るぞ」


「天宮家から頂いた贄だ。効果がない筈がない」


安堵の顔で互いを見つめ合う村人を掻き分けて、新菜は池の傍に駆け寄った。見れば娘が沈んだ池の中央から天雨神への恨みの念が池の波紋にこだましている。ぐるぐると、水宮の奥の池で見たような黒い渦が、池の底から湧き上がって来て渦巻くと、それが天に上ろうとしている。怒りや憎しみを湛えた黒い雲があたり一面を覆い、恨みの雷鳴がとどろいた。天には天神の住まう宮がある。この渦を天に繋げては駄目だと直感で理解した新菜は、渦巻く恨みの念を浄化しようと、心を静めて鎮めの唄を唄い始めた。




ひふみ 

よいむなや 

こともちろらね

しきる

ゆゐつわぬ 

そをたはくめか

うおえ

にさりへて 

のます

あせゑほれけ




ゆるり、と天を目指していた黒い渦が揺らめく。バリバリと雷光が空気を切り裂くような音がする。天に昇って行っていた渦の一部がパクリと割れて、新菜の方へと揺らめいて襲ってきた。


「きゃあ!」


「新菜さん!」


渦の一部が新菜に巻き付き、新菜を締めあげて空に掲げた。肌から感じる、娘の無念の念と恨みの強さ。娘の生きることへの強い思念が、この強い怨念を生み出しているのだ。


ググッ、ググッ、と体を締め付けられて恨みの一部が自分に向けられていることを知る。この娘には分かるのだ。同じ運命を負って、助かったものと助からなかったもの。その違いが。


『何故、生きてるあなたが、私が呪うことを間違っていると思うの! 私は殺された! 神と人によって!』


激しい慟哭が聞こえる。信じてきたものに裏切られた悲しみが、怒りと恨みを強くしている。ああ、このままでは彼女に来世がない。


「聞いてください! 辿った時間は取り戻せません! でもこれから辿る時間は選べます! あなたが恨みを忘れないままで居ると、ミツハさまを苦しませるだけでなく、あなたの魂も転生できなくなります! 辿った道はあなたと私で別れましたが、あなたの未来にも幸せになる方法があるんです!」


締めあげられて苦しい息の中訴えると、その場にとどろく咆哮が聞こえた。


『ヴオオオオオ!』


咆哮と共に新菜を締め付ける黒い渦の一部が先鋭化し、新菜の腹に刺さった。


「ぐぅっ!」


くぐもった声を上げれば、怨念の元はケタケタと愉快そうな笑い声をあげた。


『私の怒り恨みを言葉で救えるなんて思うのが間違いだわ! あなたは生きてる! 私は殺された!』


ずぶずぶと黒い先端が臓腑を切り裂く。吐血しながら、それでも新菜は訴えなければならなった。すべてはミツハの為に。


「私の……、命を屠って、あなたは……幸せですか……っ! あなたは……、幸せに、なり……たかった、の、では……、ない、のです……、か……っ!」


どくどくと血が流れる。同じ死にゆく運命の新菜を見て、念の中に迷いが生じたのを感じた。


いまだ。


新菜は迷わず苦しい息の中で唄い始めた。


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