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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
姦計を祓う

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姦計を祓う(5)


降り立ったのはあの湖のほとりだった。静かな湖面に映る木々の陰が美しいこの光景が既に懐かしいだなんて、新菜はなんて遠くに来たのだろう。そんな感傷を抱きながらも黒い渦の気配を探すと、確かにその場には、あの時感じなかった禍々しさが漂い、それを辿ると、なんとミツハを祀った祠にそれがこびりついていることが見て分かった。


何故あの時見えなかったものが今、見えるのか。それを疑問に思ったが、それよりもこの怨念を払わないといけない。新菜がそこに込められた恨みが如何ほどのものかと祠に手を触れると、ビリッとした痛みと共に、体が恨みの根源にずるりと吸い込まれて行くのが分かった。






時空を滑り落ちるかのようにして新菜が降り立った地は、日差しのきつい何処かの寂れた農村だった。粗末な家々に乾いた畑。その向こうを見れば濁った大きな池のくぼみがあった。黒い渦を辿って天から滑り落ちた感覚のあった新菜は、まずは周囲を見渡した。


黒い渦を辿って来たと思ったのに、その村や池には黒い渦は見当たらなかった。見当違いの所に落ちてしまったのだろうか? 政府が力を注いで進めているという灌漑用水路がある様子もないし、ミツハは黒い渦がうんと以前から池に浮いていたというから、ここは新菜がいた時代よりも古い時代なのかもしれない。池の傍には人が群がっている。何やら相談をしている様子の村人たちの方に行ってみることにした。


「やはり魚や犬の首、猫の頭では天雨神さまは足りぬとおっしゃっているのだ」


「かくなるうえは、やはりあの娘を沈めねばならぬ」


「天宮の家が用意した、あの娘だな」


「うむ。あの娘はそもそもひでりの時の為に生かされた娘。今沈めずして、いつ沈めるというのか」


村人たちが話し合いをしているのが聞こえた。沈めた魚と言うのは鯉黒のことだろう。ここが鯉黒の故郷だったのだ。そして今度は人間を贄として沈めようとしている。そうか、黒い渦はこの行いによってできてしまうのだ。出来る前にこの地に落ちることが出来たのはよかった。もしかしたら生贄になる人を助けて、黒い渦を作らなくて済むかもしれない。村人を止めなければと、新菜は村人たちへ歩み寄った。


「みなさま、お聞きください。命を池に沈めたとて、なんの効果もございません。命は生きてこそ神様のお喜び。命が祈ることで、神さまのお力が増すのです。贄などとお考えになるのは、おやめください」


突然現れた新菜に対し、村人は不信感をあらわにじろじろと新菜を見た。


「なんだあ? お前は」


「そんな上等な服を着て俺たちに講釈たれようっていうのかい」


「俺たちはお前よりもうんと貧しく生きてんだ。見ろ、あの畑を。旱で作物が枯れちまって、今日食べるものも危うい。俺たちは明日生きられるかどうかの瀬戸際なんだ。高みの見物してるお前なんかの説教は聞きたかないね」


村人にはミツハの紡いでくれた雨の糸で織った雨の衣が憎らしく映ってしまったらしい。失敗した、と新菜が思っても、もう村人たちに敵視されてしまった。このままでは天雨家から寄越されたという娘は池に沈んでしまう。どうにかして阻止しなければならなかった。しかし村人は娘を池に沈めることを決めてしまうと、新菜を置いてそれぞれの家に戻って行った。


やがてあたりが暮れかかり、粗末な家々から細々とした明かりが灯る頃。新菜は一軒の小さな庵の前で松明を持って入り口の番をしている人がいるのを見つけた。よく見ると入り口には紙垂しでがくくられている。きっとあの庵の中に贄として天雨家から連れてこられた娘がいるのだ。新菜はぼうぼうに生い茂った草を掻き分けて庵に近づき、背伸びをして小さな明り取りの窓から中の様子を窺った。


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