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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
姦計を祓う

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姦計を祓う(3)



ここ最近、新菜は鯉黒と一緒に庭掃除をしている。最初に一緒に庭掃除を、と申し出た時、鯉黒は新菜に、


「掃除をしたくらいで、俺の信頼を得られると思ったら大間違いだぞ」


と冷たく突き放したが、広大な庭を一人で管理するには労力が要る。二人でやった方が絶対効率が良いと思ったから申し出たのだ。


今日も仕事に精を出していたら、奥のほう過ぎて今まで気づかなかった池があるのに気が付いた。


庭の真ん中に水を湛えた大きな池ではなく、庭の端――植えられた樹々に隠れるような場所――にある、その池。庭の中央の池よりうんと小さく、そして樹々の陰になっていて水面は暗い。日の反射もないようだった。庭の中央の池が澄んで蒼く輝いているのに、この池は黒々としていて、しかも池の中央に墨のように真っ黒な渦が渦巻いている。何処からか汚れが流入しているのではないかと思い、新菜は鯉黒にこの池は掃除しないのか、と尋ねた。すると。


「その池の奥を覗いてはいけないよ」


不意に背後から声が掛かって驚いてしまう。


「ミ、ミツハさま!」


焦って振り向くと、笑顔だがどこか厳しい眼差しをしたミツハがいた。


「その池は下界と時空がつながっているからね」


「時空が……?」


「そう。下界で強く残された思念の向く方向に繋がっている。そうだね? 鯉黒」


ミツハが鯉黒に尋ねると、鯉黒は、はい、と頷いて暗い目をした。


「私が覗くといつもあの村……、私を贄にしたあの村が浮かびます……」


そうして鯉黒は、まるで新菜に示して見せるように池を覗いた。


「……俺は俺を贄に差し出した村を恨んで呪ったよ。勝手な人間の行いで命を絶たれた悔しさは今も残っている。奴らはたかが魚と思っていたんだろうさ。人間に心底憎悪が湧いたね」


今も思い出すだけでふつふつと怒りが湧いてくる。


そう言った鯉黒の池の水面に映った姿は、首の傷が赤く光ってまるで血を流しているようだった。赤い流れは鯉黒のいる池の傍の水面から中央に向かって流れていって、黒い池の中央で赤い流れと先程の黒い渦が出口もなく渦を巻いている。一緒に見えるあの景色は何だろう? 鯉黒が恨んだ村だろうか。赤と黒渦と一緒に見る村の様子は、いかにも呪われた村のように映る。


「この池はね、新菜。下界の祈りが届く場所でもあるんだ。でもそれだけに強い思念も届きやすい。鯉黒が映したその村に対して、鯉黒は未だ無念の思念を注ぎ続けている。きっと鯉黒は、天上界ここで命を救われるよりも、下界で命を全うしたかったんだろうね。その無念をどうにもしてやれない辛さは、君ならわかってくれるだろう?」


鯉黒は今も苦しんでいるのだ。首の傷がその証拠。いつまでも自分を犠牲にした村を恨んで、人間に対する憎悪でここに立っている。でも、ミツハの傍に仕えるものとして、それは正しいのだろうか?


「鯉黒さんの苦しみは赤い渦なのですよね? 黒い渦は何でしょう……」


「黒い渦は鯉黒がここに来るより以前からずっとある。過去に巫の血を引かない宮巫女が立った時に、私が十分雨を降らせることが出来なかったことがあった。……もしかすると、鯉黒のように贄にされてしまったものの恨みかもしれない。……そのものには申し訳ないことをしてしまった。しかし、そもそも天宮家がちゃんと巫を巫女に立たせてくれたら、そんなことは起こらなかったのだよ」


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