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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
姦計を祓う

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32/75

姦計を祓う(1)



下界、舞宮。鈴花は今日もイライラしていた。理由は簡単、鈴花の声に天雨神が反応を示さないからだ。


(何故……、何故今まで応じて頂いていたミツハさまのお声が賜れなくなってしまったの……!? わたくしがなにか間違えているというの!? 今までと舞も唄もなにも変えていないというのに!!)


何も変えていないどころか、今までより一層入念に舞も唄も舞宮で披露している。それなのに、今日も舞宮の天井からミツハが降りて来てくれる兆しすらない。苛立ちから神楽鈴を舞宮の床に叩きつけてしまう。


「全てお父さまに教わって、血のにじむような努力をした、たった一人の天雨家の宮巫女であるわたくしが、何故今、天雨神さまの声だけ聴けなくなってしまうのか、理解が出来ないわ!」


御殿の大きな椅子から天帝が立ち去った後であることもあって、鈴花は金切り声を上げた。


(わたくしはどの天宮家の宮巫女よりも優れていてよ。それなのに、突然ぷっつりと音沙汰なくなってしまったミツハさまの方こそ、宮巫女わたくしとの契約を蔑ろにして失礼というものだわ!)


今日もミツハの降臨がないばかりか、またしても天帝は呆れて蔑視の目で鈴花を見やった。父と母に蝶よ花よと育てられ、今まで天神の声を聴く宮巫女として大事にされてきた鈴花には、たとえ目上の天帝であっても、蔑まれることは耐えがたい屈辱だった。三年前までは雨も順調で珍重されていたこの自分が今、捨て置かれる状況を、鈴花は受け入れられないでいた。


(でも、実際ミツハさまのお声が賜れない以上、ヤマツミさまとナキサワさまにお願いしないといけない……)


鈴花は美丈夫であるナキサワは兎も角、老翁であるヤマツミをあまり好いていない。出来れば美しい存在とだけ関わりを持っていたかっただけに、麗しいミツハとの関係がこと切れてしまって、老爺のヤマツミを頼らなければならないのは、自身の自尊心からも許せなかった。しかしナキサワだけを頼ろうにも、そもそもナキサワの水の源はヤマツミの堰堤の水。ナキサワを呼べばヤマツミも降りてくるのが、ここのところの常だった。


鈴花は神楽鈴を持ち直して、舞宮で舞い唄った。


「ヤマツミさま、ナキサワさま。地の民に水をお恵み下さい。豊富な水路の水と井戸の水を、お約束下さい」


鈴を鳴らす声で舞宮の天井に訴えると、果たしてヤマツミとナキサワが、すぅと姿を現した。


「鈴花。我が巫女姫。約束しよう、我が堰堤より灌漑水路とナキサワの井戸に、豊かなる水を」


鈴花の呼びかけに応じながら、ヤマツミは内心ほくそ笑んだ。


(今までミツハ殿の陰に隠れて陽の目を見なかった儂が、今、舞宮で神として呼ばれるまでになった。ここでこの娘に儂のありがたさを嫌というほど分からせれば、宮巫女を通じて地の民に儂の名がとどろくこと間違いなしじゃ)


昔は何につけ天の雨が頼りだと言われた。それが今、明治政府の政治方針のおかげで、堰堤をはじめ、用水路や街を巡る井戸へ配水樋や給水樋などが民の為に張り巡らされた結果、それらに宿るヤマツミたちがここまでの力を得ることが出来た。つまり、これからこの国が見据える未来とヤマツミたちが歩むべき方向は同じなのだ。


「ヤマツミさま、ご厚情感謝いたします」


鈴花がヤマツミに向かって恭しくこうべを垂れると、ヤマツミはその様子を見て満足げに笑った。


「宮巫女に応じないなど、天神にあってはならぬ愚行。しかし儂が水を統べれば、おぬしも移り気なミツハ殿に頼らなくて良くなるぞ、鈴花。その時こそ、我らが地の世界の水の覇者となる未来が来るのだ」


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