表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
宮奥での暮らし

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/75

宮奥での暮らし(12)

「ミツハ。ようこそ来たわね」


「アマサト、元気のようで良かった」


アマサト神は深紅のきぬ内衣ないいを合わせ、を履き、紕帯そえひもを締め、領巾ひれを肩から掛けた古式ゆかしい装束に身を包んでいた。黒く豊かで長い髪を背中の真ん中で緩く結わえており、口許の笑みを崩さない。新菜を見ると、にっこりと微笑むものだから、天神の一柱かと思うと新菜は畏まって俯いた。


「あらあら、かわいいお嬢ちゃん。ミツハ、この子があなたの巫女姫なのね?」


「そう、新菜と言う名だ。私に新しい命を与えてくれた」


そう紹介されて、新菜はアマサトに頭を下げた。


「あら、じゃあこの子がミツハの恩人さん?」


「そうだ」


ミツハが言うと、アマサトは、そうなの、と慈愛の眼差しで新菜を見た。


「ミツハが永らえるなら、地の民は幾分か過ごしやすいでしょうね。その為のあなたの代償が大きかったようだけど」


代償、と言われて、おそらく記憶のことなのだろうな、と思った。しかし、ミツハがそのことを言っていないのに、何故アマサトはそのことを知っているのだろうか。


「視たね、アマサト」


「視たわよ。私たちはそれぞれ個だけど、地の民の為に多くを共有するわ。あなたが私の所に来たのも、他の三人への伝言も兼ねているのでしょう?」


言い当てられた、とばかりにミツハが肩をすくめた。成程、天神たちの連携ぶりが見えるようだ。


「その通りなんだ、アマサト。人に近しい君の言葉なら、他のみんなも聞くと思う」


「分かったわ。この子の為にも、この件に関しては私が取り次ぎましょう。千年以上も途絶えていた行為ですもの、ミツハが慎重になるのも当然ね。でも、あなたが神嫁を迎えることで下界との関係が安定するならそれに超したことはないわ」


「ありがたい。アマサトが居てくれれば、これほど力強いことはない」


「ふふ、おだてたってなにも出て来やしないわよ」


ぽんぽんと跳ぶ軽口が、この二柱の仲の良さを示していた。羨ましい。新菜にはこんな風に軽口を叩ける相手が居たことがない。


「ところで黙ったままのお嬢ちゃん。あなたの義妹、帝の請われて一生懸命舞を舞ってるけど、それについてはどう思うの? 彼女もミツハと契約できてないけど、あなたも契約できてないのよね?」


アマサトの言葉にハッとする。


「神嫁になれるのは、契約した巫女姫だけ。あなたがミツハの傍に居たいと思うなら、まずミツハと契約することを考えなさい」


目の前のミツハのやさしさに有頂天になって、問題の根本を忘れていた……。恥ずかしくて顔があげられない。やみくもに役目を求める前にまず、考えなければならないことだった。


ミツハが背に手を添えて励ましてくれるが、やさしさに甘えてばかりいてはいけない。恥ずかしさを跳ね除け、くっと奥歯を噛み、腹に力を入れる。


「……思い出します。……ミツハさまのお名前を」


ミツハの傍に居て、ミツハを救うために。


アマサトが満足げに微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ