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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
贄の娘

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贄の娘(2)



時は明治。この国に西洋の文化が流入し、人々の暮らしは急速に便利になっていった。馬より早く走る自動車に蒸気機関車、闇夜を照らすガス灯など、それらの恩恵を人々は多大に享受していた。人々が生きる中で様々な神に願いと祈りを届けてきた風習などは消えはじめ、科学と文明がこの国を支配していた。


一方、古くからの習慣に従って神を敬い、その恩恵の言葉を神から直接賜ることのできる人間が、ごく少数だがこの国には居た。人が文明開化に湧き、街が発展しても、その影響は人の世・地の世界に大きい。


天宮あまみや家――古来より天帝に、人々の生活に身近な『末のすえのかみ』の声のみならず『日・風・雨・土・木』五柱の『天神あまがみ』の声を届ける役割を担う巫を輩出する家系――は、そんな、依然天帝の先見に助言を行っている、古来より続く由緒正しい家柄だった。





天宮家のひとつ、天雨あまう家。新菜は今日も朝から家事に精を出していた。昼頃に義妹の鈴花が天帝のお召しを受けて宮廷の舞宮に上がっているので、今は幾揃いかある予備の神具を天雨家の蔵のひとつである宝物庫で磨いているところだった。


どれも旧い時代から天雨家に受け継がれているもので、使い込みによる汚れなどが落ちにくい。それでも神具は舞の時に神さまにその存在を気付いて頂けるよう、ぴかぴかに磨いておかなければならない。新菜は普段使うぼろの手拭いとは違う神具を磨くための専用の滑らかな布で、取っ手の飾りと幾つもついている鈴を一つずつ丹念に磨いていた。


ふと、開放してある蔵の入り口から薄暗い蔵の中に差し込む光で光った鏡に映り込む自分の姿を、新菜は見た。傷んだぼろぼろになった紺色の着物につやのない長い髪を一つに結わえただけのみすぼらしい少女が、そこには映っている。年頃の少女としての華やぎが一切ないその姿から目を背けて俯けば、神具用の真っ白な布を持つ手先も毎日の水仕事にあれていた。華やかな容貌の義妹との差に沈鬱な気持ちになりながら、のろりと再度手を動かし始める。


蔵に流れ込む空気は湿り気を含むというにはほど遠い。時期としては梅雨でおかしくない頃合いなのに雨は一向に降らず、今年も空梅雨の様相だ。今頃鈴花は天雨神さまのお声を賜れているのだろうか、と懸想していると、背後からぴしゃりと木の棒で背中を叩かれた。


「新菜! お前、また鈴花の神具の手入れをさぼっているわね! なんです、その身の入らない顔は! 暑いからと言って手を抜いて良い仕事じゃないのですよ! 天雨家に生まれながら、天神さまはいざ知らず末の神さまのお声も聞けないお前をこの家に置いてやっている恩を、忘れたんじゃあないでしょうね!?」


鈴花が舞宮に上がっているときは、殊更気が立っている義母の市子を振り向く。目を見ればやはり、娘の釣果に心を揺さぶられて、気が気ではないという様子で一重の目を吊り上げていた。結った黒髪には乱れもなく、草木模様の美しい淡い紫色の着物を着た市子は、しかしその美しい装いに似合わない細長い木の棒を手に持っている。新菜はこうべを垂れて、今磨いていた神具を市子の前に差し出した。


「このように、念入りに磨いておりました」


差し出したのは、鈴の沢山着いた神楽鈴。ひとつひとつの鈴から取っ手に至るまで丁寧に磨き上げてある。しかし。



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