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雨の神は名づけの巫女を恋ひ求める  作者: 遠野まさみ
宮奥での暮らし

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宮奥での暮らし(6)

「ミツハさま。私はまだお役目を果たしておりません。そんな私に、あまりやさしくしないでください」


「そんなつれないことを言わないでくれ、新菜。君からの声を待っていた間、私は焦れに焦らされた。君をやっと宮奥に迎えることが出来て、本当に嬉しいんだ。新しい名を貰った時に連れてこられたらよかったのに、あの時君に、家を捨てるわけにはいかないと言われて私は悲しかったんだ。だから君が贄となり、私の許に再び舞い降りた時、もう君を離さないと決めたんだ。君を私で染めてしまいたい。こんな気持ちになるのは、君だけになんだよ。だからやさしくするくらい、許して欲しい」


ミツハにそう切々と訴えられると、まるで新菜が悪いのかと思えてくる。新菜は自分の不出来さをよく分かっていたから、ミツハが自分を愛しげに見てくる理由が分からない。名を付けたというだけではやはり恋はしないと思うし、名を付けた時にミツハが宮奥へ誘ったのも断っているのだから、印象としてはあまりよくなかったと思うのだが……。


考え込んで眉間にしわを寄せてしまった新菜に、そんなに怪訝に思わないでくれ、とミツハが訴える。


「清らかな魂に、我々神は弱い。地の世界に生まれて過ごせば過ごすほど、生きていく為の計略打算というものを覚えるだろう? 地の世界に生きて、君のような清らかな魂を持つ民は珍しい。君は見た目や境遇で判断されているのではないと、知るべきだよ」


ふふふ、と口に緩く笑みを浮かべるミツハの言葉に聞き入ってしまいそうになるが、それでも役目を果たさなかったら約束破りになる。親切なミツハに、恩を仇で返すようなことはしたくない。


「……私、一刻も早く思い出しますね……。思い出せたら、ミツハさまのお言葉も素直に受け取れるような気がするんです」


「そうだな。契約が出来ぬままでは地の世界も干からびよう。君が思い出してくれることを祈るよ」


からからから。トントンカラリ。穏やかに続くかと思われた水の気配が色濃く静かな空間に、しかし襖の外から声が掛かった。チコだった。


「ミツハさま。ヤマツミさまとナキサワさまがお見えです。面会を求められておられますが、いかがされますか?」


チコが来客の名を上げた時にミツハがちっと舌打ちをした。少し嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。


水宮ここに立ち入らせるな。六角宮で会おう。新菜、しばし待てるか」


「は、はい」


急にピリッと冷たい空気をまとったミツハが新菜に言葉を向けるときだけやわらかくなる。それにしても、温和そうに見えるミツハにこんな態度を取らせるヤマツミとナキサワとは、どんな人なのだろうか。


(宮奥に居られるのだから、神さまなのよね……)


新菜はミツハとミツハに付き添うチコを見送りに、宮の玄関まで出た。すると六角形の屋根の宮から伸びる雲の道を、老人と青年が歩いてくるのを見つけた。


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