9. ダラメットの決意
『……』
──ザンツィルと出会ってから三年。
やはり、ザンツィルは変わっていない。いや、少しは考え方も変わってくれているのかもしれない。もし、それに自分が気付けていないのならば、リーダーとしては情けない。
『もう、どうでもいいさ。好きにさせればいい』
自分がそう言うと、ダラメットは黙り込んでしまった。もうザンツィルを呼び戻すことはできない。いずれまた会えた時に変わってくれていることを願うしかなかった。ダラメットは俯いていた顔を上げる。
『……過去に何かあったんじゃないすか? それしか考えられないんすけど』
仲間を信じることができない理由は、ザンツィルの過去にある……?
〈ザンツィルの過去か、無理に聞くような話でもないだろうし〉
『ザンツィルは自分の過去の話を全然しないから分からないけど、仲間を必要としないのならずっと"一人"でいさせてあげればいいよ。後悔するまでね』
自分がザンツィルの過去を聞いても話してはくれないだろう。ザンツィルは自分のことを信頼していない……逆に嫌っているだろう。
一人でいたいザンツィルを、自分が無理に引き止める必要もない。
〈ん?〉
何か考え込んでいるのか、俯いているダラメットの表情は険しかった。
ダラメットに次の任務を頼もうと思っていた。ダラメットと組む団員も既に決めてある。机の引き出しから任務に関する資料を取り出そうとしていた。ザンツィルの事はもう考えない方がいいだろう。
『……ライメゼ』
俯いていたダラメットが顔を上げる。
〈……〉
ダラメットの表情を見て自分は少し驚いていた。
何故か、ダラメットは小さな笑みを浮かべている。
『ダラメット、次は別の団員と任務を』
さっさと任務の話をしようと自分から話し出した。
──『ちょっと行ってくるっす。"ザン兄貴"を呼びに』
『兄貴……?』
何故、突然ザンツィルのことを兄貴と呼び出したのか意味が分からず、唖然とした表情でダラメットを見ていた。ダラメットはザンツィルを呼びに行くつもりなのだろうか。
『それじゃ、呼んでくるっすよ! ライメゼ、また!』
『待て、ダラメット‼︎』
座っていたイスから立ち上がり、大声でダラメットを呼び止める。だが……。
──バタン
ダラメットは走って部屋から出て行ってしまった。
『……』
小さなため息をついてから、再びイスに座る。ダラメットはザンツィルについていくつもりなのかもしれない。資料を見ながら窓に視線を向ける。
〈また……考え直さないといけないな。ダラメットも戻ってこないだろうから〉