8. 握手をする
『……』
ザンツィルはこちらをジッと見ている。自分の顔色を窺っているのだろう。焦りは見せずに小さく微笑んでいた。
『はぁ……』
突然、何故かザンツィルは大きなため息をついた。何故ため息をついたのか、意味が分からず首を傾げる。スールイティ団に入らないと言われてしまったら困ってしまうが……。
『どうしたの?』
ため息をついた理由を聞いてもいいのか迷っていたが、気になるので一応聞いてみることにした。
『あんた読めねぇな。オレが嫌いなタイプの人だ。でも、500万ゴルドは欲しいからスールイティ団に入ってやるよ』
ザンツィルはスールイティ団に入団してくれるようだ。番力が使える団員が入るのは初めてで、今後どうやって活躍してくれるのか期待しながら様子を見ていくことにする。
『それじゃ……』
テーブルに押さえつけていたザンツィルの頭と左腕から手を離した。余程痛かったのか、ザンツィルは左肩を軽く回していた。握手をしようと思い、自分の右手をザンツィルに差し出す。
『……何だよ?』
『これからよろしくねっていう握手』
右手を差し出している自分を、ザンツィルは鋭い目つきで睨んでいる。握手が苦手なのだろうとすぐに気付いた。
『な〜んで、お前なんかと握手なんかしなきゃいけねぇんだよ。言葉だけで充分だろ。ハイ、ライメゼさん、ヨロシクオネガイシマース』
『んー、やっぱり減らそっかな、500万ゴルド。リーダーである俺の言うことに従えないのなら……ね』
『……』
自分がスールイティ団のリーダーだということを忘れていたのだろうか。大きく口を開けたままザンツィルはこちらを見ている。自分のような性格の人物は嫌いだと言っていたが、リーダーである自分の命令には従ってもらわなければならない。勝手な行動をされては、他の団員達にも危険が及んでしまう可能性があるからだ。
『さぁ、どうする? 握手しておく?』
微笑みながら、眉間に皺を寄せているザンツィルを見ていた。報酬金を減らされるのが余程嫌なのか、握手をしようか悩んでいるようだ。右手を差し出したまま待つことにする。
『あぁあああ‼︎ くっそ、握手すればいいんだろ‼︎ ほら、ヨロシクオネガイシマァアアス‼︎』
自分の右手をザンツィルは左手で握ると、強く縦に振った。そんなに自分と握手をするのが嫌だったのかと思うと、少し面白おかしく思えていた。
だが、ザンツィルの性格を考えると、他の団員達と行動を共にさせるのは少し難しいかもしれない。
〈やっぱり、様子を見ようかな。ザンツィルが……仲間達とどうやって任務をこなしていくのか〉