5. 左目の瞳
──水の色が赤色へと変わっていく。
〈やっぱりなぁ。まぁ、何か彼は怪しいとは思っていたけど……〉
壁に掛けられている電話に視線を向ける。先程の従業員の青年を呼ぶべきか呼ばないべきかで迷っていた。
今度はドアの方に視線を向ける。
〈……彼はすぐ近くにいたりしてね。ちょっと試してみようかな〜〉
従業員の青年がドアの外でこちらの様子を窺っている可能性がある。自分が水を飲むのを待っているに違いない。もし、そうだとしたら自分がやるべき事は……。
〈さてと、入ってきてもらおうか〉
しゃがんでコップに入っていた水を音を立てずに床にこぼす。中が空になったガラスのコップを持ち、ドアの方へと足音を立てずに移動した。ドアが開いたら隠れられるようにドアの右側で待機する。そして、空になったガラスのコップを、先程まで自分が座っていた場所の近くへと放り投げた。
──カッシャン!
ガラスのコップは大きな音を立てて割れてしまった。割れた音を従業員の青年が聞いていれば、自分が眠って倒れたのだと思い、油断して部屋へと入ってくる筈だ。
〈ふぅ。後は、どうやって捕まえるか、だなぁ〉
──ガチャガチャ
ドアノブを回す音が聞こえる。どうやら、自分の考えは当たっていたようだ。口元に笑みを浮かべながら、従業員の青年が入ってくるのを待つ。
──ギィィ
先程の従業員の青年が部屋へと入ってきた。自分が座っていた席へと向かって歩き出す。背中をこちらに向けているので、従業員の青年の背後が狙える。
『ハハ、馬鹿な客だなぁ。でも、水を飲んで倒れてくれたみたいで助かった。さてと、さっさと金目の物を貰って……』
『何が欲しい?』
従業員の青年の背後で小さく呟いた。
『は……?』
──ダァン!
『いっ‼︎』
従業員の青年の両腕を背後に回し、テーブルに頭を押さえつけた。
『あれ?』
頭を押さえつけた瞬間、従業員の青年が被っていたかつららしき物がテーブルの上に落ちてしまったようだ。
『くっそ‼︎ てめぇ、眠ってなかったのかぁああ⁉︎』
濃い茶色のゆるふわ髪に変わっている。一番驚いたのは、かつらで見えていなかった目だった。
『オッドアイか、初めて見た』
驚いた表情で、従業員の青年の赤色と薄茶色の瞳を見ていた。
『ハッ……気味が悪いか? もしかしたら、病気かもしれないから、さっさとオレから手を離した方がいいんじゃねぇのか⁉︎』
『まさか。その瞳の色は生まれつきでしょ? 本当にいるんだなぁと思っただけ』
自分がそう言うと、従業員の青年はこちらを鋭い目つきで睨んでいた。