4. テドL15
〈早めにって……随分と失礼だなぁ〜。本当に従業員か?〉
自分も従業員の青年をジッと見つめる。
飲み物を早く選んでほしいようなので、ドリンクメニューの表に視線を向けた。まだ喉は渇いていない。取り敢えず、水を一杯頼むことにしようと思い、人差し指を上げた。
『それじゃあ、水を一杯お願いしていいかな?』
『……水?』
『どうかしたの?』
従業員の青年の両目は前髪でよく見えないが、こちらを睨んでいるような気がする。何故睨んでいるのか分からず首を傾げる。持っていたドリンクメニューの表を従業員の青年は自分から取り上げた。
『水ですね、分かりました。持ってきたら置いておきますので』
『うん、ありがとう』
従業員の青年はドアから出ていってしまった。もしかしたら、高額なワイン等を注文してくれると思っていたのだろうか。さすがに今はアルコール類を飲むわけにはいかない。酔っ払って眠ってしまったら毛皮のコート等を盗まれてしまうかもしれないからだ。
何故かライトフォンの電波は1と表示されていた。外で待機している団員へ電話をかけても繋がらない可能性がある。
〈あまり電波がよくないみたいだし、少し外に出よう〉
外へ出てから再びライトフォンを取り出し、団員へ電話をかけた。
『リーダー、レストランの近辺を怪しい者は通っていません。リーダーが建物内に入ってから、後をつけていた者もいなかったです』
……ついてきていない?
〈もしかして……警戒されてる? だとしたら、面倒だなぁ〜〉
自分も辺りを見回してみるが、確かに建物の近辺には人があまりいない。盗みが上手いと言われている者は噂を聞いていないのだろうか。取り敢えず、もう一度部屋に戻って様子を見てみるべきだろう。電話を切り、レストラン内へと戻った。
『あ!』
部屋に戻るとテーブルの上に水が入ったコップが置かれていた。先程、従業員の青年が持ってきてくれたステーキ以外の料理はまだ持ってきてくれていないようだ。
〈おかしいな、結構時間が経っている筈なんだけど。まだこの水だけかぁ〜……ん?〉
目を凝らしながら水が入ったコップをよく見てみる。何か違和感を感じ、水が入ったコップを軽く揺らしてみた。
透明な粉のような物が水の中を舞っている。
〈これは……まさか〉
眠り薬に反応する薬品"テドL15"の錠剤を水が入ったコップの中に入れてみた。もし、眠り薬が水の中に入っているのならば、水の色は赤色へと変化する。従業員の青年が飲み物を先に頼んでほしいと言っていたのも何か違和感があった。
もし、赤色に変化したのならば……従業員の青年を呼ばなくてはならない。