12. 金
『……』
ジッと背後から首に当てられているナイフを見つめていた。新品のナイフなのか刃はかなり鋭い……急所を狙われたら一溜りもなさそうだ。
『兄ちゃん、金持ってんだろ。さっさと渡せば殺しはしない』
逃げられないよう黒髪の男性は左手で自分の左肩を強く掴んでいた。気配を消して自分に近付いてきたのだろう。
……やはり、黒髪の男性は盗賊だ。
誰もいない廃墟の街に何故一人でいるのかと不審に思っていたが、まさか追い剥ぎをしていたとは。ダウスモに来た旅行者や観光客を狙っていたのだろうか。
自分に追い剥ぎをしてくるとは思わず小さく笑ってしまった。
『兄ちゃん、怖くて笑っちまったのかぁ? ハハハ、そうだよなぁ〜、怖いよなぁ〜』
黒髪の男性は笑いながらそう言うと、自分の首に当てていたナイフをゆっくりと頬に近付けてきた。自分の頬にナイフを当ててどうするつもりなのだろう……黒髪の男性の予想外の行動を見ていると面白い。
『その笑っている顔、泣き顔にしてやってもいいんだぞ? さっさと金を出しな』
『……』
金を渡さなかったら、黒髪の男性がどのような行動を起こすのか気になる。
本当に自分を泣かせられる程の実力がある人物ならば、スールイティ団にほしいぐらいだ。
〈少し遊んでみようかなー〉
『金は持ってない。あなたは盗賊なのか?』
『誰が質問していいなんて言ったんだ? ああ⁉︎』
──ザッ
自分が質問したことに相当苛立ったのか、黒髪の男性は突然ナイフで自分の頬を軽く切りつけてきた。
〈怒りやすい人なんだなぁ。はいかいいえで答えるだけでいいのに〉
思わず小さなため息をついてしまう。あまりにも短気な人物ならばスールイティ団にはいらない。団員同士で喧嘩をされても困るからだ。既に首元と頬の二箇所も切られている……追い剥ぎごっこはそろそろやめるべきだろう。
〈飽きてきたし〉
まだ切りつけてくるようならば、もう容赦はしない。
『なぁ兄ちゃん、さっさと金を渡せばすぐに逃がしてやるよ。だけど、もし渡さないのなら……この街からは二度と出れないと思え』
『金は持ってない。何度も言わせないでほしいんだけど』
ダウスモの調査に来ただけなので、本当に大金は持っていない。渡せばと言われているが、そもそも持っていないのだからどうしようもない状況だ。
『なら、しょうがねぇよな』
そう言うと、黒髪の男性はナイフを再び首元に当ててきた。自分は微動だにせずまたナイフに視線を向ける。今度こそ首元を切るつもりのようだ。
『悪く思うなよ、兄ちゃん!』




