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お風呂の時間

 風呂というのはリチャードの住む街において、各家庭に完備されているという訳ではない。


 ごく普通の家庭は身体を洗う際は大衆浴場に行ったり、暑い日等は井戸水を浴びたり、体を拭くに留めるのが割と一般的だ。


 一軒家に風呂がある家庭もあるが、そういう家庭はリチャードのように元含め冒険者だったり、商家だったりしており、王家や貴族ともなるとお風呂というよりは大浴場が城や屋敷に設置されている。


「使い方が分からないんだから、当然ではある……か」


「ごめんなリチャード、わがまま言って」


「わがまま? 一緒に風呂に入りたいってのがかい? ハハハ、可愛らしいわがままもあったものだ」


 少し前、食事を終えた2人は着替えを持って風呂場へと向かった。

 リチャードが浴槽の横に付いている魔石を使ってお風呂の沸かし方をシエラに教えるが、そもそも魔力の放出など、練習していない子供に出来るはずも無い。


 とりあえずリチャードがお風呂を沸かし、自分は待っているからと、先にシエラに入るように言って、脱衣場から立ち去ろうとした。


 しかし、そもそもシエラがお風呂がどういう場所で何をすれば良いのか分からなかった事や、リチャードが説明した際に「使い方がわからないし、1人は怖いから一緒に」と涙目で言われてしまった結果。

 今2人はリチャードがシエラを抱えるようにして浴槽のお湯に浸かっているという訳だ。


「はあ~やはり風呂は良いなあ」


「リチャード、熱い」


「ん、それはいかんな。ちょっと冷ますか」


 浴槽横についた魔石を操作して水を足し、適温になったのか、初めてお湯に浸かっているシエラも気持ち良さそうに「はあ~」と先程のリチャードのように声を出してご満悦の様子だ。


「さて、体は温もったかな? 体を洗うぞシエラ」


「体を洗う? お湯に浸かっているだけじゃ駄目なのか?」


「ああ駄目だ。さあおいで、こっちで私と同じようにしてみなさい」


「分かった」


 言われるままにシエラは浴槽から出ると、リチャードの真似をしてタオルを濡らしてたたみ、石鹸を擦り付けてタオルを泡立てる。

 次に、体を洗い終われば頭だが、リチャードがこの時頭髪用洗剤の事を思い出して、洗剤が入った小瓶を手に取る。


「ふむ、少量手に取り泡立てる、だったか。どれどれ」


 リチャード自身も初めて使う頭髪用洗剤、シャンプーを手に出して泡立てると、シエラにもその泡を分けて2人で頭を洗い始めた。

 

「ほう、こいつは凄いな髪がサラサラになる」


「泡、泡が、目に入りそう!」


「おお、待て待て。洗い流してやろう。ギュッと目を閉じているんだぞ?」


 桶に浴槽のお湯を汲み、隣にちょこんと座るシエラにそのお湯を掛けながら頭を撫でるように洗っていくリチャードだったが、泡の魔の手はリチャードの目にも迫っていた。


「む、ぐああ! 目が! 目がしみる!」


「リチャード!? お湯、お湯を!」


 そんなこんなで体と頭を洗い終わった2人は再び浴槽のお湯に浸かり2人揃って「あ~」とお湯の気持ちよさに声を漏らす。


「お風呂って気持ち良いな」


「だろう? お風呂は体と一緒に心も洗うから気持ち良いんだそうだ」


「心?」


「まだシエラには難しいかな? 大丈夫、大人になれば分かるさ」


 心地良い風呂での時間も終え、シエラの体や頭を拭きながらリチャードは「この子が今10歳と仮定して、後5年経って成人する頃には私は40の一歩手前か、歳は取りたくないもんだな」と思い、少しばかり哀しくなってしまった。


「シエラ、喉は渇かないかい?」


「渇いてる」


「よし、ならあの甘い砂糖入り牛乳を作ってあげよう」


「……ありがとうリチャード」


「構わないよ。私も飲みたいからね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] お風呂は心も洗う いい言葉だ このセリフを見て面倒だから寝て明日朝シャワー浴びればいいや と後回し仕掛けていたお風呂に入る事にしたよ ありがとう
[良い点] 風呂はいいです。海と同様に心が洗われます。そしてこのほのぼのとした間がいいです。
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