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明日は祝日

 敬親の日を翌日に控え、シエラは友人3人と共に放課後、商業区を訪れていた。


 服飾店や雑貨屋は敬親の日に合わせておすすめの商品を分かりやすく陳列していたので、子供達は「あれも良いなあ、これも良いなあ」と、自分の両親への贈り物を選んでいる。


「俺はお揃いのカップとネクタイピンとリボン買った」


「俺は新しい包丁! 店用と家用2本だ!」


「私も買い終わったよ〜」


「わ、私も大丈夫です」


 贈り物の会計を終え、最後に訪れた雑貨屋から出ていく4人。

 リグス、ナースリーが先に店から退店し、次にマリネスが店から出ようとした時の事、マリネスが棚に置かれていた髪留めピンを見ている事にシエラは気が付いた。


「欲しいの?」


「え? あ、いや、綺麗だなあって思って見てて……」


 シエラに後ろから声を掛けられ、青い星型の飾りが付いた髪留めから目を離し、マリネスがリグス達が待つ店の外へと出ていく。

 そのマリネスに続いてシエラも外に出たが、シエラは「あ、買い忘れ」と言って踵を返して再び店に戻った。 


「なんだ? まだなんか買うのか?」


「ん。さっきリグスがナースリーにもなんか買うかって言って、髪留め買ってたから。

 俺もマリネスに髪留め買った」


「「……え?」」


 先程マリネスが見つめていた青い星型の飾りが付いた髪留めを見せ、シエラはその髪留めをマリネスに渡しながら言うと、リグスに「早く渡せ」と言わんばかりにジッとリグスの目を見つめた。


「あのさあ…………ったく。なんで聞いてんだよ」


 シエラに見つめられて、というよりはナースリーに秘密でプレゼントを買った事をバラされて恥ずかしくなったリグスが、顔を赤くして上着のポケットに入れていたクローバーの葉の飾りが付いた髪留めをナースリーに渡す。


「リグスはシエラちゃんの事が好きなんじゃ無かったの?」


「う〜ん、いやあ初めて会ったときは可愛く見えたんだけどなあ……コイツどっちかってえと男っぽいっつうか。

 遊んでみたら男より男っぽいからさあ――」


「それは言い過ぎ!」


 というやり取りが放課後の商店街であった事を、シエラはリチャードと夕食を摂りながら特に怒っている様子もなく無感情に話していた。


「ハハハ。リグス少年はなんというか、素直だなあ」


「ん。確かに素直だと思う」


 馬鹿という言葉が出ない、出さないあたりが親子らしくなってきた二人は同じタイミングでサラダを頬張り、同じタイミングで水を飲む。

 早めの夕食を終え、二人で何時ものように食器を洗い終わると風呂へと向かった。


「今日ママは遅いの?」


「さあ、どうだろうね。そろそろ帰って来ても良い頃だと思うがね」


 風呂場に向かいながらシエラがリチャードに聞くと、リチャードは廊下の壁際に立つ魔石の魔力で動く柱時計に視線を向けてはシエラの頭にポンと手を置きながら答える。

 そして、リチャードの言っていた通り、二人が廊下の先の玄関に差し掛かった丁度その時、勢い良く玄関の扉が開いた。


「たっだいまあ!」


「ママお帰り」


「お帰りアイリス。食事はダイニングに置いてある。済まないが私達は先に風呂にするよ」


「あらら~私もシエラちゃんとお風呂入りたかったなあ」


「ママとは明日入る」


「あら本当に? じゃあ明日も仕事頑張らないとねえ」


「休みじゃないの?」 


「ギルドマスターに祝日は無いのだ」


 娘の言葉に肩を落として落ち込むアイリスにシエラは近付くとポンとその落とした肩に手を置く。

 励ましてくれるんだと思い「シエラちゃん」と置かれた手に自分の手を添えて顔をあげたアイリスはシエラの目に光が失われているのを見た。


「あれ?」


「なんでママ明日休みじゃないの?」


「ええ〜、あ〜いや〜。それは〜」


「なんで? 明日はお休みの日だよ?」


「私はギルドマスターだから、ごめんね」


「…………なるべく早く帰ってきてね」


 膨れっ面のシエラがアイリスに抱き着きながらそう言うと、アイリスもシエラを「分かった、ママ頑張るわね」とハグ仕返してシエラの頭を撫でた。


「さあ。シエラ、お風呂に行こう」


「ん。分かった」


 リチャードの言葉にシエラはアイリスを離すと先に風呂場に向かって歩き出した。

 それを見送り、リチャードはアイリスの側に寄り「何かあったのかい?」と、耳打ちする。

 アイリスは仕事熱心ではあるが、休む日は休むタイプの人物だ。

 それこそ以前、リチャードとシエラをピクニックに誘うために仕事を休んだ程に。


「ちょっとまだ調査中だから、あんまり詳しくは言えないなあ」


「君が言えない? 国絡みか……穏やかじゃないな」


「いや、そうでもないのよ。でもねえ――」


「そうか、戦争絡みではないのか、悪かったね。

 今はこれ以上聞かないようにするよ」


「ごめんなさい」


「何を謝る事がある。仕事だ、仕方無いさ。

 ……では私は風呂に行くよ、また後でな」


 アイリスから離れ、微笑むリチャードは「パパ?」と風呂場前の脱衣所から顔を覗かせたシエラの方に向かって歩いていく。

 明日は敬親の日。

 リチャードとシエラは久し振りに親子二人っきりだ。

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