シエラが話をしている頃
初日のクエストを終えたシエラはその日、話を終えると疲れが出たのか早々に眠気に襲われ、リビングのソファの上でリチャードに寄り掛かって眠ってしまった。
「おやおや」とリチャードにお姫様抱っこで抱えられ、寝室のベッドで寝かしつけられたシエラは柔らかい布団に包まれて夢の中へと導かれる。
その夢の中でシエラはマリネスやリグス、ナースリーの4人と冒険者として旅をしたり、自分よりも遥かに巨大な魔物と戦う夢を見た。
そんな夢を見て笑ったり眉間に皺を寄せたりするシエラの寝顔を見ながら、リチャードは微笑みシエラの額を撫で「おやすみ私達の愛しい娘、良い夢を」と言葉を残すと寝室からリビングへ向かう。
「ちゃんと寝た?」
「ああ、何か夢を見ているようだ。百面相をしていたよ」
「ふふ。今日の事でも思い出してるのかしらねえ」
「そうかも知れないな」
ソファに座り、リビングで寛いでいたアイリスとリチャードが笑い合っているそんな日常にある幸せを甘受していた。
そんな幸せな時間より時は少しばかり遡り、シエラが家に帰ってきた時刻と同時刻。
屋敷に帰宅したマリネスは専属のメイドにそのシエラ程ではないが泥に塗れた姿に悲鳴を上げられていた。
「お、お嬢様!? 随分帰りが遅いと思ったら。そのお姿、どうされたのですか!?」
「あ、えっと。今日お友達と学校でミニクエストを受けて、それでちょっと」
「お友達とミニクエスト! あの内気なお嬢様が!?」
屋敷の玄関先で騒ぎ立てるメイドの声にマリネスの父親や母親も姿を表し、遅くに帰宅したマリネスを迎えた。
「ほら、迎えの御者が言った通りだったじゃない。
マリネスはお友達とクエストを受けに行くって言ってたって。
お帰りマリ。随分頑張ったみたいね」
「ただいま帰りましたお母様、お父様。すみません、制服をこんなに汚してしまいました」
「替えはあるわよ。話は後で聞くわ。さあお風呂に入ってらっしゃい」
こうしてマリネスはお風呂でメイドに体を洗ってもらい、お風呂が終わると部屋着に着替え、遅めの夕食を終わらせると、広いリビングで両親に今日の出来事を楽しそうに話した。
「ほお、あのシュタイナー氏の娘さんが。良い縁を得たなマリネス」
「Sランクパーティ緋色の剣の面々を育てたシュタイナー様と、ギルドマスター、アイリス様の娘さんと私達の娘が友達かあ。
マリは仲良く出来そう? せっかく友達になったんだから喧嘩は駄目よ?」
「あ、はい大丈夫だと思います。シエラさん、優しいから」
「あの二人の娘さんなら、このままうちのマリネスを娶ってくれればマリネスの未来は安泰なんだがなあ」
「そうねえ。上三人はもう放っておいても大丈夫だけど。内気なマリネスを守ってくれるなら相手が女の子でも一向に構わないわ」
クエストの話だけでなく、今日あった出来事を楽しそうに話したマリネスと、その話から飛躍して愛娘マリネスの将来を想像しながらマリネスの両親は言った。
つまるところ結婚相手は同性でも良いと内向的な娘に言ったのだ。
貴族間でお見合いさせるのも構わないが、やはり恋愛は親が関与するよりも当人同士で育むべき。
これは恋愛結婚したマリネスの両親の考えだが、話を聞く限りマリネスはシエラを好いているようだし、とそんな話をしたわけだが、恋愛など10歳の娘には少しばかり早いわけで。
マリネスからしてみれば両親の話は突飛だった為、首を傾げあまりよくわかっていない様子だった。
「まあとにかくシュタイナーさんとは仲良くしなさいって話さ。わかったかい? マリネス」
「あ、えっと。はい、分かりました」
「また時間が合うようならパーティの皆を遊びに連れて来なさい。
娘の友達なら歓迎しないとセルグの名が廃るわ」
「あ、はい。必ず連れて来ます」
話をしながら夜は更けていく。
こうして、小さな冒険者見習い達の初めてのクエストは無事終わったのだった。