お風呂に入ろう
日も暮れ、星が瞬き、月が姿を見せても帰ってこないシエラを心配し始めた頃、夕食を片付け終わりリビングで娘の帰りを待つリチャードとアイリスの耳に「ただいま」とシエラの声が聞こえた。
しかし、いつまで経っても廊下を歩き出す音がしないのでどうかしたのかと心配になり、二人は様子を見るために玄関へと向かう。
すると、そこには制服だけではなく自身も上から下まで泥に塗れたシエラの姿があった。
靴も靴下も泥だらけになっている為に綺麗な廊下を歩くのを躊躇ったシエラは玄関先から動けなくなっていたわけだ。
「おお〜、どうしたシエラ。派手に転んだか?」
「あらら、ちょっと待ってて。拭く物持ってくるわ」
シエラの頬に付いた泥を手で拭いながらリチャードが聞き、アイリスがタオルを取りに洗面所へ行く。
そんな二人にシエラは申し訳無さそうに俯くが、しかしその表情はどこか嬉しそうだ。
何かトラブルに見舞われたわけではないらしい。
いや、トラブルはあったのだろうが、シエラにとっては悲観するような出来事では無かったのだろう。
「はい、靴も靴下も脱ぎなさい、洗濯するから服も脱いじゃいなさい、あら〜髪にまで泥が……これは先にお風呂かしらねえ。
先にお風呂沸かしておいて良かったわ、さあ入ってらっしゃい」
「タオルありがとう……ママ。
パパ、今日は一緒にお風呂入ろう?」
「おや、今日は私で良いのかい? ではせっかくのお誘いだ、甘んじて受けようではないか」
「じゃあ私は二人がお風呂に入ってる間に洗濯しておくわね」
アイリスから受け取ったタオルで足を拭き、シエラは廊下をリチャードと一緒に風呂場へ向かい、アイリスも二人に続く。
そしてシエラとリチャードは脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入った。
それを見届けたアイリスは脱衣所から繋がる洗濯場に洗い物の入った籠を纏めて持って行くと水魔法を発動、大きな水球を作り出すとその中に洗濯物を全て入れ、続けてその中に洗濯用洗剤を適当に入れた。
そしてアイリスはその水球に手を翳し、水球の中に水流を作り出し回転させると中の洗濯物を洗っていく。
その頃、風呂場では久し振りにリチャードがシエラの髪を洗っていた。
一緒に風呂に入る事は度々あるが、髪や体には極力触れてこなかったリチャードだったが、流石に髪にまで付着した泥を落とすためには仕方無いと思ったのだ。
「後ろが凄いな、服も前より後ろが汚れていたし。背中から転けた……いや、誰かを庇ったのかい?」
「分かるの?」
「もちろん、私はシエラのパパだからね」
髪の泥を落としながら、リチャードは後ろからシエラの頭を撫でて言うと、桶で浴槽のお湯をすくいあげると「流すぞ」と声を掛けるとシエラに一気にお湯を掛けた。
洗髪用の洗剤ごと泥が全て洗い流され、いつもの綺麗な水色の髪があらわになる。
「良し、髪はもう大丈夫だな」
シエラの髪を洗い終わり、リチャードは自分の体を洗い始めた。
「パパどう? 泥、全部落ちてる?」
リチャードが体を流していると、シエラがリチャードの前で恥ずかしがるでもなく、ことも無げに胸も下も隠さず腕を広げて回りながらシエラが言った。
「うむ、泥は見当たらんな」
「良かった。じゃあ後はゆっくりお風呂入る」
嬉しそうに微笑んで湯船に浸かるシエラ。
そんなシエラに続くようにリチャードも体と頭を洗い終わると湯船に浸かった。
「あー、やはり風呂は良いなあ」
「パパいつもそれ言ってる」
「ん? そうかね? まあ良いじゃないか、本当の事だからね」
「ん。そうだね。……ねえパパ聞いて? 今日のミニクエストね――」
「おっと、その話はお風呂から上った後でママと一緒に聞くよ。独り占めは勿体無いからね」
「ん。分かった」




