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食事中

 リチャードが夕飯を作り終えた頃には、日は沈み、夜空には星が輝き、丸い月が地平線からひょっこり顔を出していた。


「さあ、食べよう」


「……食べて良いのか?」


「ああもちろん。シエラに食べてもらいたくて作ったのだからね」


 キッチンからダイニングに移動し、四角いテーブルにスープの入った鍋、サラダ、ライス、そして保冷庫にあったフルーツを並べると、リチャードが座りながら言ったので、シエラもならってリチャードの対面に座る。

 

 スプーンの持ち方もままならないままだったが、シエラがスープを飲み始めたのを見て、リチャードは微笑むと自分も手を合わせて組み、一礼すると食事を始めた。


 それから少しばかり過ぎた時の事、リチャードはシエラが大粒の涙を目に貯め、声も出さずに泣きながら食事を食べている事に気が付く。


「どうした? 熱かったか?」


「ううん、違う。…………よく分かんない。……こんなに美味しい食べ物を、食べられるのが……嬉しいのかな?」


「ふう、そうか。良かった、熱さで火傷でもしたんじゃないかと心配したよ」


 火傷などでは無かった事に安心し、胸を撫で下ろして微笑むリチャードの姿にシエラは不思議そうに首を傾げる。


 そんなシエラが水を飲もうとコップに手を伸ばした時だった。

 手が滑ったか、力が入らなかったか、水の入ったガラスのコップをシエラは床に落としてしまった。


 パリンと小さく割れた音を聞いて「ああ、割れてしまったか」とリチャードは割れたコップを片付ける為に立ち上がる。


「あ、ごめん……なさい。俺、割るつもりなんて」


「構わないよ。それよりもシエラに水が掛かっていないか? ……ふむ、少しばかり掛かってしまったな。

 いや、まあコップに関しては丁度良かったよ。もう随分ずいぶん長いこと使い続けていたコップだったからね。

 そろそろ買い替えるために――」


 捨てようと思っていた、そう口にする寸前でリチャードは言葉を呑み込んだ。

 捨て子であるシエラにこの言葉は無配慮むはいりょ無遠慮ぶえんりょに過ぎるかと案じたのだ。


「交換する手間が省けたよ、ありがとうシエラ」


「俺は、悪い事をしたのに、なんでお礼なんか」


「悪い事? コップを割った事がかい? わざとなら悪い事だが、シエラにはそんなつもり無かったんだろう? それにシエラは反省して、もう謝ったじゃないか」


 リチャードの言葉にシエラは無言で頷くが、やはり罪悪感からか、泣き出してしまった。

 

 こういう時どうしたら良いのか、リチャードは知っていた。

 

 その昔、師匠に修行だとそそのかされ孤児院の子供達の世話を冒険者のクエストとして手伝った事があった。

 まだ若造だったリチャード、が孤児院をいとなむ教会のシスターから聞いた事だ。


「泣いている子供には、こうして抱き締めてあげるのが一番ですよ」


 と、シスターに言われたその時は結局リチャードは子供をあやせなかったが、今回は大丈夫だった。


 リチャードは優しく包むようにシエラの頭を抱擁すると、ポンとシエラの頭に手を置いて撫でる。


 そのリチャードの行動に、自分は許されたのだと感じ、シエラはリチャードの胸に顔を埋めて、自分を救ってくれた男の服を離すまいと精一杯の力で掴んだ。


「さあ、食事が終わったら風呂に入って、眠くなるまでゆっくりしよう」


「ん、分かった」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんわかです。温かいです。思い返せば自分はこういうのを書いていない事を思い出しました。
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