シエラが目をつけた少女
雨の中、リチャードは自分とシエラに雨避けの魔法を使い、見えない傘に守られるように学校へと共に向かった。
そして、学校に着いたリチャードは職員室へ、シエラは教室へと向かう。
授業まではまだ時間がある。
シエラは今日からリグスやナースリーと共に挑戦するミニクエストに向けて、もう一人誘う為に最前列の自分の席に荷物を置くと、窓際の最後列の席へと向かっていった。
前衛を務めるシエラとリグス、後衛にナースリーという編成の為、もう一人、シエラは後衛が欲しいと思い、ある生徒に声を掛けに行ったのだ。
最後列の窓際席。そこに座る生徒にシエラは目をつけていた。
その生徒は普段のシエラと同じ様にAクラスでは孤立している生徒だ。
ただ、シエラが近づき難い生徒なタイプという認識に対して、その生徒はクラスメイトとのコミュニケーションが苦手なタイプの生徒だった。
物静かで、休み時間は一人で読書をしているような口数の少ないその生徒。
シエラはその生徒が誰かと親しくしている所を見たことが無い。
「ねえ、ちょっと良い?」
「え? ……わ、私ですか?」
シエラが目につけたその生徒は、貴族の娘らしくブロンドの髪は綺麗だが、前髪が長く目元まで隠れている。
その長い前髪の間からちらりと覗く瞳はサファイアの様に蒼く、綺麗だなとシエラは素直に感じていた。
この女生徒、入学試験の成績は剣技はともかく魔法の成績はシエラに次ぐ。
ただ、やはり入学してからまだ友達が出来ていないのか、今日も件の女生徒は窓際の自分の席で一人、シエラが話し掛けるまで本を読んで過ごしていた。
「俺、今日からミニクエスト受けるんだけどさ。
もし良かったら、一緒に行かない?」
「ミ、ミニクエストですか? いえ、私なんかが……シュタイナーさんとご一緒するなんてそんな事出来ません」
「なんで? 俺の事嫌い?」
「き、嫌いだなんてそんな事……でも、私、その……迷惑掛けちゃうから」
「なんで? まだ一緒にクエスト行った事無いのに分かるの? 未来が見える魔法? もしそうなら尚更一緒にパーティを組んでほしいんだけど」
「あ、あの、そう言う事じゃなくて……」
初めて会話する相手にリグスがナースリーに公園でやったように肩を掴むのはどうかと思い、立ち上がり逃げようとした女生徒の後ろの壁に手を添えるシエラ。
いわゆる壁ドンである。
女生徒の退路を断ってまくし立てるシエラに女生徒はしどろもどろ。
それを見ていた他の女生徒達からはシエラが壁ドンした辺りで黄色い歓声が上った。
「マリネスさん、羨ましいですわ」
「セルグ家のご令嬢をお選びになるなんて、流石ですわシエラ様」
何が羨ましくて、何が流石なのか分からないシエラは周りの声などお構いなしに壁ドンした女生徒、マリネス・ツー・セルグに更に詰め寄る。
「セルグさんが優秀なのは入学試験とこの間のスライム狩りで分かってる。
無理なら無理って言って。俺は無理強いはしたくないから」
壁ドンしといてどの口が言うのかと周りの生徒達は思うが口にはせずに心の中で各々ツッコミを入れた。
というのも口に出したら最後、シエラに嫌われるかも知れないと思ったからだ。
強い女性は好まれる。それは男子にであれ、女子にであれ。
「あ、あのでも私。私なんかが――」
マリネスが言い掛けた時だった。
カーン、カーンと始業を報せる鐘の音が校舎に響いた。
「ん。ここまでか。じゃあセルグさん、また後でね」
「え、あの――」
マリネスの言葉を聞かずにシエラは最前列の自分の席へと戻る。
そして、リチャードが教室に来るまでシエラは窓の外を眺めながら、まだ了承を得たわけでも無いのにマリネス有りきの戦闘パターンのシュミレーションを頭の中で始めたのだった。