結局シエラは二人に欲しい物を聞いた
ミニクエストをリグス達と受けると決めたその日の晩。
シエラは夕食時にリチャードとアイリスに明日からリグス達とミニクエストを受けるため、帰りが遅くなるかも知れないと伝えた。
「シエラが友達とミニクエストを受ける……か。
なんというか、娘の成長を感じられて……泣きそうなんだが」
「あらら、お父さんは随分涙脆いわねえ」
目頭を押さえるリチャードの様子に、アイリスは苦笑している。
シエラはシエラで急にリチャードがそんな様子になったものだからアタフタと慌ててしまっていた。
「ら、来週敬親の日があるから何かプレゼントしたいなって思って……それで」
サプライズプレゼント計画はどこへやら。
話題をそらしたい一心でシエラが言った言葉。
その言葉が嬉しくて、そして同時に驚いて、リチャードもアイリスも持っていたスプーンを手放してしまう。
カチャンと音をたてるスプーンと、放心したかの様子の2人。
そんな2人にシエラは顔を赤くして照れながら続ける。
聞くまいと思っていた。聞いても2人は「気持ちだけで十分」と言うかも知れない。
それでももうこの際、何かプレゼントの参考になればと思いシエラは2人に聞いた。
「何か欲しい物無い? 何か……してほしい事でも良いんだけど」
「欲しい物かあ……」
シエラの予想に反し、リチャードもアイリスも
欲しい物を聞かれて真剣に考えるのを見て、シエラはどこかホッとしていた。
聞いてみるものだと、聞いてみて良かったと思いはにかんでいた。
「そうだなあ、ミニクエストで獲られる金で買えるとなると……おおそうだ、お揃いのカップや食器セットなんかはどうだい? いや、食器セットは高いか?」
「そうねえ。形に残る物が嬉しいかもねえ。
お父さんにならネクタイとか、私にならリボンなんかも有りかしらねえ。
シエラちゃんに買ってもらえるならなんでも嬉しいんだけどねえ」
「形に残る物……分かった、考えてみる」
2人の答えを参考に色々考えるシエラ。
やる気に満ち溢れ、キラキラ輝く瞳を見たリチャードとアイリスはそんなシエラに微笑んだ。
「あ、私シエラちゃんにお願いならあるわよ?」
「何?」
「ママって呼んでほしいなあ」
「ズルいぞアイリス。私も未だに名前で呼ばれていると言うのに。まあ親父とは言ってはくれるが。
そういう事なら私だってパパと呼ばれたいな。
どうかなシエラ、これを機に私の事はパパと呼んでくれないかい?」
「う、あう」
急なお願いに耳まで赤くしたシエラが俯く。
期待感が高まる親馬鹿二人は「さあシエラ私をパパと」「シエラちゃん、ママって呼んでみてママって」と言い寄る。
「う、うるさい馬鹿親父! もう寝る! おやすみなさい!」
追い詰められたシエラが恥ずかしさのあまり怒ってダイニングから駆け出して行ってしまった。
リチャードとシエラが出会ってから初めての事だったが、リチャードは苦笑していた。
感情的になるのは心の距離が縮まった証拠。
それを表に出すようになったのは信頼されている証なのだから。
「怒らせてしまったかな?」
「恥ずかしかっただけよ。もう、分かってるクセに」
「ハハハ。まあな。さて、では恥ずかしくてお怒りの私達のお姫様に何かデザートでもお持ちするとしようかな?」
「あんまりたくさん食べさせては駄目よ?」
「ふむ。確かにな今日はやめて明日の朝食にプリンでも出してあげるか。
今日は少し早めに寝支度をしてお姫様の隣で私達も眠るとしよう」
「そうね、そうしましょ。じゃあまずは夕食の片付けからね」
この後、リチャードとアイリスは夕食の片付けの後、寝支度を整えるとシエラのふて寝する寝室へと向かい、シエラが眠るベッドにシエラを挟み込むようにベッドに入り、二人でシエラを抱き締めながら眠りについた。