交流会の後。自宅にて
その後、交流会も無事終わり、帰宅したシエラとリチャードはアイリスが帰って来る前に、と夕食の準備をしていた。
リチャードが野菜を切り、それを運んでシエラが鍋で煮る。
コトコトグツグツ煮込まれた野菜や香辛料の香りがシエラの腹を鳴らした。
「お腹減った。アイリスまだ帰ってこないのかな」
「ん? お腹が空いたなら先に食べるかい?」
「いやいい。皆で食べる」
「無理はするなよ?」
「ん。大丈夫」
食事の準備が終わり、ダイニングのテーブルに皿を二人で並べていると、アイリスが「ああ~!疲れたあ!」と帰宅。
風呂場の脱衣所にギルドの制服の上着を脱ぎ捨て、シャツとズボンだけの姿でアイリスはダイニングに現れた。
「ただいまあリック、シエラちゃん」
「お帰りアイリス、今日もご機嫌だな」
「そりゃあ。仕事を終えて帰った家に恋人と娘が待っててくれるなら機嫌も良くなるってものよ。ねえシエラちゃん」
「ん。確かに。家に二人がいる時が1番楽しい」
シエラをハグしながら何時もの様にご機嫌なアイリスの様子にリチャードは苦笑しながらキッチンヘ野菜スープが入った鍋を取りに向かい、シエラとアイリスは席に着いてリチャードの帰りを待つ。
その間にアイリスはシエラに「今日の交流会はどうだった?」と話を聞いていた。
「トールス兄ちゃんに褒められた」
「あら、それは……普通に凄いわね」
「でね? その後にリチャードと兄ちゃんが戦ったんだけど、リチャードが勝った」
「……え!? トールスに勝ったの!?」
「ハハハ。まあ勝ちはしたが、アレは正々堂々とはかけ離れたダーティーな戦い方だ。
それに、生徒達が居ない、周りを気にしないで良い場所なら私は一瞬で負けていたさ」
アイリスがシエラの言葉に驚いているとリチャードが鍋を持ってキッチンから戻ってきた。
主菜と副菜、ライスとスープを並べて始まるいつもの夕食。
今日の話題はもっぱら今日の交流会の事になった。
「――なるほど、対人戦の心得ねえ。
確かに盗賊やらは不意打ち、騙し討ちは当たり前だからねえ。
早い時期に意識させるのは悪くないかもね」
「少し、やりすぎた気もするが」
「そんな事無いわよ、油断したトールスが悪い。ねえシエラちゃん」
「ん。確かに合図の後に他所見した兄ちゃんが悪い」
とまあコレだけ噂をしているからか、この時トールスはミリアリスとベッドで寛いでいたところ、数回くしゃみをするハメになってしまった。
「誰かが俺の噂でもしてんのか?」
「ええ~? 先生に今日の手合わせのダメ出しされてるんじゃないの?」
「いやいや、そんなわけ……あるかも」
当たらずも遠からずの予想をしながらトールスはミリアリスを抱き寄せる。
そんなトールスを慰めるようにミリアリスもトールスの背中に手を回し、優しく包むように抱き締めたのだった。
場所は戻ってリチャードの家のダイニング。
シエラがいつに無く楽しそうに今日の交流会の事をアイリスに聞いてもらっていた。
「――でね? リンネ兄ちゃんには今度、召喚魔法教えてもらうんだ」
「特級加護持ちのシエラちゃんが召喚魔法なんか使ったら何が召喚されるのかしら」
「ふむ。稀代の天才魔法使いと呼ばれたリンネですら賜っている加護は上級の物。
特級加護持ちが召喚魔法を使ったなんて資料は見たこともないし、確かに少し、いや……かなり興味あるな」
弾む会話、進む食事。
家族三人の団欒は続いていく。
そして食事を終え、キッチンに食器を運んだあとの事。
リビングのソファに座った瞬間だったと言っても過言では無い。
シエラはまるで糸が切れたマリオネットの様に眠りに落ち、隣に座っていたリチャードの膝に頭を預けて意識を手放した。
「あら、シエラちゃん寝ちゃったの?」
「ああ、本当に座った瞬間に眠ったよ。
疲れていたんだろうな。昔孤児院で子供の面倒を見ていた時の事を思い出したよ。
子供というのは本当に急に眠ったりする。面白くも愛らしいよ」
眠るシエラの頭を撫でながらリチャードは言うと、アイリスが頬を膨らませながらシエラとは反対側に座りリチャードを睨む。
「私も撫でてください」
「おやおや。そんな栄誉を頂けるのかい?
なら遠慮なく撫でさせていただくよ」
願わくば、こんな幸せな時間がいつまでも続きますようにとリチャードは思い、アイリスの肩を抱き寄せ、頭を撫でながら、娘と恋人のぬくもりを手の中に感じていた。