娘は父と母の出会いが気になる
「今日の学校はどうだった?」
リチャードが夕食を作りにキッチンに向かった後。
2人きりになったリビングのソファ、シエラの隣にピッタリくっついて座ったアイリスが聞いた。
その問いにシエラは今日学校であった事を大まかに答える。
「――で、帰り際にクラスメイトにリグスとナースリーを馬鹿にされたから怒った」
「あらあら、じゃあその子達は今頃その子のお父さんに大目玉食らってるかもねえ」
「大目玉?」
「怒られてるって事よ、貴族あっての平民なんて考えじゃあ国を支える立派な貴族にはなれないからね」
実際同時刻、シエラのクラスメイトは三人が三人共に両親から「この馬鹿者! 貴族は民を守るための存在! 民あっての我々だと教えた筈だぞ! 誰の税金で我々が生活出来ていると思っている!? 平民ごときがなどと今後絶対に言うな!」とさながら雷でも落ちる勢いでお叱りを受けていた。
「その三人はシエラちゃんと仲良くなりたかったんでしょうけどねえ。
この国の貴族は腕節の強い女性を伴侶に迎えるのが自慢になるから。
……私も経験あるなあ、好きでもない貴族に求婚されたりねえ」
「アイリスはなんて言って断ってたの?」
「百年修行して私より強くなってから出直して来いって言ってやったわ」
「遠回しに完全拒否してる」
「まあ……私はリチャードと出会ってからは……って娘になに話してるのかしら」
途中まで話したところでアイリスは顔を赤くして照れて両手で顔を覆った。
しかし、途中で中断されてはシエラとしては気になって仕方無い。
気になったことは知りたい質のシエラは「リチャードと出会ってからはなに? ねえアイリス続きは?」とアイリスの体を揺すって聞く。
「シエラちゃん、お父さんと無自覚ドSなところが似てきたわね」
「無自覚どえす?」
「いいの、気にしないで忘れて。
お父さんとの馴れ初め、聞かせてあげるから」
「ん。分かった」
「おいで、膝枕してあげる」
「じゃあついでに耳かきして」
「ええ、良いわよ。お話しついでに耳かきしてあげるわ」
アイリスの了承を得られたのでシエラはソファから立ち上がると、リビングの出入り口のすぐ横に置いているチェストラックから梵天付きの耳かきを取り出し、ソファに戻ってきてはその耳かきを渡して自分の頭をアイリスの膝に預けた。
「あら? 綺麗じゃないの、まあ良いわ。
撫でるくらいの力でマッサージする感じにしておくわね」
「ん。アイリスの耳かき気持ち良くて好きだから、任せる」
アイリスに身を任せるシエラ。
家族とは言え他人に無防備を晒すのは信頼の証。
シエラが如何に自分を信用しているかを実感し、ややこみ上げてくる物を感じながらアイリスは微笑み、耳かきを始めた。
「で? アイリスはいつからリチャードの事好きなの?」
「ゔ、忘れてなかったか。
そうねえ好きだと思ったのは彼と何度目かのクエストに行った時だったわねえ。
自慢じゃないけど私は強いからね、たまのヘルプでクエストの手伝いをしても。まあなんていうか女性としては扱ってもらえないっていうか、雑に扱われてたわけ。
そんな中で彼だけは初めてクエストを一緒に受けた時から私を女の子として接してくれてねえ――」
ここからアイリスの惚気話が延々と続いていく。
シエラはその話を羨ましそうに聞いているが、耳かきの気持ちよさもあってか徐々に眠気に微睡んでいく。
「――で、戦争の時もピンチの時に駆け付けたりしてくれてねえ……彼を見ていたら、いつの間にかリチャードの事が好きになっちゃってて……って、あれ? シエラちゃん? あらら寝ちゃった」
「寝かせてどうする。シエラ、起きなさい。夕食が出来たぞ?」
「リック!? いつから後ろに!?」
「今来たところだが? さあ君も空腹だろ? 夕食にしよう」
寝惚けたシエラを抱きかかえ、ダイニングに向かおうとするリチャードに続いてアイリスもソファを立つ。
しかし、そこでアイリスはリチャードの顔が真っ赤になっている事に気が付いた。
今来たところなどと言っていたがそれは嘘で、実は話を聞いていたのだとアイリスは気が付き、2人は廊下を歩きながら揃って照れて、顔を赤くしたのだった。