実家に帰りたくなる時、あるよね
ギルドマスターのサインが入ったクエスト完了証明書を貰ったトールス達【緋色の剣】はギルドへの道を歩いていた。
恩師であり先輩であり友人であるリチャードの家から出てきた面々は、どこか胸一杯といった様子だ。
それはもちろん負の感情から来る胸一杯の悲しみ、などではなく。
どちらかと言えば羨ましいや、おめでたい、喜ばしいという感情から来ている。
「先生もギルドマスターも幸せそうだったなあ」
「ええ、本当にね。久し振りに実家に帰りたくなっちゃった」
「わかる、明日一日あるし。
俺、今日はギルドハウスに帰らずに親父とお袋に土産でも買って実家に帰るわ」
流石の剣聖もシュタイナー一家の雰囲気に絆されたようだ。
トールスは冒険者になってから初めてのホームシックに陥っていた。
だがそれは緋色の剣のメンバー5人全員にも同じ事が言えた様だ。
「私もギルドから直接実家に帰るわ」
「私もそうしよ~。お父さんお母さんの肩でも揉んであげようかなあ」
「僕も久し振りに帰るよ、婆ちゃんに会いたくなっちゃった」
「私も母に何か買って帰って、父の墓参りにでも行くとするよ」
そんなわけで、緋色の剣の面々はギルドに報告書を提出し終わると、ギルドにいた他の冒険者達からの賛辞を背に受けながら各々自宅へと帰っていった。
現在のパーティ最強の剣士トールスと、パーティの司令塔であり主に回復や補助役を担う魔法使い、ミリアリスは幼馴染みだ。
家が近いこともあって二人は仲間と別れた後、並んで道を歩き、先程まで見ていたリチャード達家族について話をしていた。
「なんかもう、先生に戻ってきてくれなんて言えなくなっちまったなあ」
「アンタまだ諦めてなかったの?」
「いや、諦めたよ。
無理だろ。あんな幸せそうな家族を引き離すなんて」
「血は繋がってなくても、か。
良いなあ、私もそんな家族が欲しいなあ。
ねえ? トールス、アンタもそう思うでしょ?」
「何だよ。まあ、確かに思うけど」
トールスの腕に自分の腕を組みながらミリアリスが上目遣いでトールスに言った。
そんなミリアリスに顔を耳まで赤くしたトールスは答える。
どうやら将来、この国最強の剣聖は未来の嫁に尻に敷かれる事になりそうだ。
「それにしても娘さんのシエラちゃん、見るからに成長してたわね」
「ん? ああ確かにな。最初会ったときは痩せ細っててガリガリだったもんなあ」
「剣聖から見てどうだった?」
「どうだった? って言われてもなあ。見ただけでは何とも言えないだろ。
先生ほど観察眼に優れてるわけじゃないんだから」
「血は繋がってないと言ってたけど、アンタと手合わせしたいって言った時のシエラちゃんの目、誰かに似てたと思わない?」
「ああ、それは思った。
ギルドマスターと手合わせした時と同じ目をしてたな。
アレは戦うことを楽しむやつの目だと思う。
まあでも今十歳だっけ? スライムくらいなら相手出来るだろうけど、流石にまだ対人戦なんて出来ないだろ。
明後日の交流会でトールスお兄さんが剣の何たるかを教えてやらないとなあ」
「あの二人の娘が戦えない、なんて事あるのかしら」
「ないない流石に無い。
十歳のこの時期ってまだスライム相手の実戦訓練終わった位だろ?
なら先生の娘さんにせいぜい胸を貸してやるさ」
握った拳で胸を叩き、高らかに笑うトールスとその様子に苦笑するミリアリス。
さて、2日後の交流会で二人はどんな表情を見せてくれるのだろうか。