兄弟子の実力を知りたい
「俺達の遠征中に色々あったんですねえ」
リチャードが入れた甘いコーヒーを飲みながら、リチャードが元いたパーティの剣士、トールスは二人から聞いた今日までの経緯を聞いていた。
「先生が本当に先生になってるなんてなあ」
そして、リチャードとアイリスの交際と同棲、冒険者養成学校への赴任の話もそこそこに、この街屈指のSランクパーティ【緋色の剣】の面々はアースドラゴン討伐の詳細をリチャードとアイリスの二人に報告し始めた。
「やはり、あの巨体は強化魔法の類で支えていたか」
「はい。先生の予想が当たっていました。
魔力切れさせてからは一方的に攻める事が出来ましたよ。
次いで、片足に攻撃を集中してバランスを崩してから攻める。先生に教えてもらった大型の魔物と戦う際の鉄則はアースドラゴンにも通用しました。
とはいえ、罠を張るのも、罠に嵌めるのも一苦労でしたよ。
なんせ小さな山くらいのサイズ感でしたからね」
鼻高々。
というよりは自分達の成長を知ってもらいたくて話をするトールス含めた緋色の剣の面々たるや、その様子はまるで子供が親に頑張った事を褒めてもらいたくて話しているような印象だった。
そしてこの時「ただいまあ」とリチャードとアイリス二人の本当の子供が帰宅した。
シエラは帰宅後洗面所で手を洗い、話し声の聞こえるリビングへと向かうが、扉を開けると見覚えはあるが良くは知らない大人が五人。
三人がソファに、二人は予備の背もたれの無い一人掛けソファに座りローテーブルを囲んでいる。
その五人を警戒しながら壁際を歩き、シエラはリチャードとアイリスの座るソファの裏へと回った。
「……こんにちは」
「こんにちは。えっとシエラちゃんでしたっけ?」
「ああそうだよ」
「親父、この人達って確か親父がいたパーティの人達だよね?」
「そうだよシエラ。Sランクパーティ【緋色の剣】の皆だ」
ソファの裏に隠れ、顔だけ出したシエラがリチャードに聞く。
その様子が可笑しくてクスっと笑ったアイリスは「こっちにおいで」と自分の膝をポンポンと叩き、シエラを呼んだ。
それに素直に従って、シエラはソファを回り込んでアイリス元へ行くと膝の上に座る。
そんなシエラが愛おしくて、アイリスはぬいぐるみでも抱くかの様にシエラを抱きしめた。
「なんだかギルドマスター、優しくなりましたね」
「私は昔から優しいでしょ。
でもそうね。もしそう見えるならそれは娘のおかげかもね。
血は繋がってないけど、この子は間違いなく私達の宝物。
それに私達二人を結んでくれた恋のキューピッドでもあるしね。
シエラちゃんのおかげで今の生活があるんだもの。
私はシエラちゃんのお母さんになるんだし。親が娘に優しくするなんて、大切にするなんて当たり前の事でしょう?」
言いながら、アイリスはシエラを優しく抱きしめていた。
それが嬉しくてシエラは微笑む。
リチャードの家のリビングになんとも言えない和やかな空気が漂っていた。
「なあ親父、緋色の剣ってことは。
この人達の中に剣聖がいるんだよね?」
「ああそうだよ。この国に所属する八人の剣聖。
この国の王様に認められた八剣聖の一人がそこにいるトールスさ。なあ雷神剣」
「いやもう、ホント止めて下さい先生。
その二つ名で呼ばれるの普通に恥ずかしいんですって」
「ハハハ。文句なら二つ名を与えた王に言うんだな」
照れ笑いを浮かべるトールスに笑いながら言うリチャード。
その横でアイリスに抱っこされているシエラが興味の眼差しでトールスを見ている。
「親父とトールス、さんはどっちが強いの?」
「そりゃあトールスさ」
「もちろん君のお父さんだよ」
「「ん?」」
シエラの口から漏れ出た疑問にリチャードと対面に座るトールスが同時に答えた。
しかし、お互いの答えが不服だったのか「いやいや、トールスの方が若くて力も俊敏性も上で――」とリチャードがトールスを褒めれば、トールスはそれに対して「真っ向勝負ならそうかも知れませんけど、先生の凄いところはどんな状況でも最善手を選択して手練手管で――」と反論する。
二人がお互いの戦力に対して議論が始まりそうになるなか、シエラが何やら考えているのか顎に手を当て首を傾げた。
その顎に手を当てる仕草はリチャードが考え事をするときの癖。
どうやらリチャードの癖がシエラにも写ったらしい。
「トールス、さん」
議論に突入した二人の間に割って入る様にシエラは言う。
その声にリチャードもトールスも口をつぐんでシエラを見た。
「俺と手合わせください」
「シエラちゃんと? まあ、俺は別に構わないけど」
「ふむ、確かに格上に挑んでみるのは良い経験になるな。
…………どうだろう皆、明日……は流石に性急に過ぎるか。明後日辺り、養成所に訪問してくれないか?
生徒皆に現役冒険者の体験談を聞かせてやってほしいんだ。
その後交流会というていでトールスはシエラと
戦ってやってくれ」
「先生の頼みなら断りませんよ。構いませんか?ギルドマスター」
「ええ、構わないわよ。私の方から養成所には打診しておくわ」