試験からの帰り道
試験からの帰り道、リチャードとシエラはリグスとナースリーを引き連れる形で帰路を歩いていた。
さあ帰ろうとなった時こそ「シエラちゃんのお父さんですか? こんにちは~」とおっとりした性格のナースリーは挨拶していたが。
「やあ初めまして、こんにちは。シエラの父、リチャードだ。 シエラと友達になってくれたみたいだね、ありがとう」
と、挨拶を交わした辺りでナースリーの顔色が変わっていった。
リチャードという名前は特に珍しい名前では無い。
ただ、ここ最近ナースリーは「これは内緒なんだけど」と元Sランク冒険者、リチャード・シュタイナーが冒険者養成所の教官になるという話を冒険者ギルドで職員を勤める母から聞いていた。
「え、リチャードさんって、Sランク冒険者のリチャード・シュタイナーさん、ですか?」
話を母から聞いていたので冒険者養成所にいるリチャードとなればもしかして? と思い、ナースリーは聞いた。
そしてその予想は当たりだったわけだ。
「元、だがね。そのリチャード・シュタイナーだよ、お嬢さん。
さあ、シエラ。今日はもう終わりだ、帰ってお祝いの準備をしようか」
「ん。帰る」
というわけで、帰る方向が途中まで同じだったリチャードとシエラ、リグスとナースリーは同じ道を歩いていた。
「リグスは知ってたの? シエラちゃんがシュタイナー様の娘さんだって」
「ああ知ってたぜ? うちの店に何回か一緒に来てたからな」
「なんで教えてくれなかったの?」
「なんでわざわざ教えなきゃなんねえんだ」
前を歩く二人、リチャードとシエラの耳にそんなやり取りが聞こえてきた。
現役の時から自分の知名度に皆目興味が無かったリチャードにとっては、自分の名が年端もいかない子供に敬称付きで呼ばれる事に気恥ずかしくなっていた。
一方でシエラは父の名が友達の口から尊敬を持って敬称付きで呼ばれた事が誇らしくなり、顔がニヤつきそうになる、なんならドヤ顔を披露したくなる程に。
「でも、納得したかも、シエラちゃん凄かったもんね」
「なあ〜。まさかの一刀両断、魔法も貴族連中がびっくりするほどの威力だったもんなあ。
あいつらの驚いた顔、面白かったよなあ」
今度は自分の事を話しているのが聞こえ、シエラが気恥ずかしくなって顔を赤くし、リチャードはリチャードで娘の活躍ぶりを聞いて鼻高々な様子だ。
実に親子である。
「じゃあリチャードのおっちゃん、俺達はここで!」
「あ、待ってよリグ! シュタイナー様それでは。ばいばいシエラちゃん! また入学式でね!」
「気を付けて帰るんだよ二人共」
「ばいばいナースリー、またね」
十字路で別れ、走って行ったリグスを追うようにトテトテ駆けていったナースリーに小さく手を振るシエラを見て、リチャードは微笑むとシエラに手を伸ばした。
「良かったな早速友達が出来て」
「ん。良かった。あの二人とは仲良く出来る気がする」
リチャードの手を取り繋いで、二人は家へと歩いて行く。
シエラの表情はいつになく優しいものだった。少なくともリチャードにはそう見えた。