実技試験、魔法の部
次の試験、魔法の試験となると参加者自体が減る。
10歳の子供で魔法が使えるとなると、それは魔法の教育を受けている貴族か、家族に魔法に精通した人間がいるかだ。
となると試験開始からずっとシエラにくっついて行動しているナースリーという少女は家族に攻撃魔法を使える者がいるのだろう。
貴族の少年少女に続いてナースリーは杖を掲げると火魔法初級のファイヤーボールを見事使って見せ、シエラが壊したため交換された試し切り人形に見事焦げ目を付けて見せた。
「ふうぅ、ちゃんとできたよぉ」
順番待ちをするシエラに言いながら、安堵したのか微笑みを浮かべるナースリーに、シエラはこくんと頷いてみせ「じゃあ最後だから、行くよ」と言ってナースリーと入れ替わってシエラは試験用の人形の前に立つが、そのシエラを「すまない、少し待ってくれ」と試験官を務める教官が止めた。
「魔導銃、使えるのかい?」
「ん。問題ない」
「そうか……人形に防御魔法を掛けてもいいかい?」
「いいよ」
試験官を担当する教官から見ても、シエラの剣技、剣術の実力は相当なものだった。
そんな少女が扱いの難しい魔導銃を問題なく使えるという。
教官からして人形を壊されたくないから防御魔法を使うのではない。
シエラの実力を試してみたくなったが故の防御魔法だった。
「よし、では試験を開始しよう。壊せるなら壊してもいいよ?」
「ん。じゃあ、壊す」
驕っているわけではない。
シエラにはそれが破壊できると思ったから出た発言だった。
数メートル離れた位置に立ち、肩に銃床を当て狙い定めるように構えるのではなく、無造作に腕を伸ばして特に狙いをつけるでもなく銃口を向けると、グリップに埋め込まれた魔石に魔力を込めていくシエラ。
そのシエラの様子を貴族の親たちも黙って見ていた。
10歳の子供とは思えない剣技を披露して見せたシエラがどんな魔法を使うのか興味があったからに他ならない。
シエラはいつぞや魔導銃を初めて撃った日のように頭に水を思い浮かべていた。
銃口の先、魔法陣が展開され、放たれる水魔法。
大砲の砲弾のようなそれが魔法陣から放たれ一直線に人形へと向かっていく。
それだけでも大人達はポカンと口を開けて驚愕の表情だった。
しかし、驚くべきはその威力だ。
シエラが放った水の砲弾は防御魔法が掛かっているはずの人形の胴体に直撃しその胴を分断。
人形の上半身が宙を舞った。
「ん。魔力込めすぎた……全部使う」
銃という名の魔法の杖に安全装置があるわけでもない。
今の魔導銃にはシエラの込めた魔力が余分に魔石に貯蔵されているため、いうなればカートリッジに弾が残っている状態だ。
再びシエラが魔法を発動した、今度は水が関与しないただの魔力弾。
それを宙を舞う人形の上半身にすべて命中させる。
鍛錬の成果なのだろう。
水魔法程ではないが、そのただの魔力弾ですら上半身の両腕、頭部を吹き飛ばす威力を出力できるほどにシエラは成長していた。
もうこうなるとさっきまで突っかかってきていたガング少年もその取り巻き達もシエラを恐れて顔面蒼白だった。
「じ、実技試験はこれで終了になります、ええっと、それではこれから筆記試験になりますので、私に続いて校舎までお願いします」
防御魔法を掛けた人形を易々と破壊され、ショックだったのだろうか、試験官役の教官も動揺を隠せないようで、少し俯きながら受験生達を先導する。
貴族の大人達はというと何やらざわついているが、どうやら同伴するのはここまでのようだ、子供たちについてくることは無いようだった。
「シエラちゃん凄い魔法だったね! どこで覚えたの?」
「親父とアイリスに教えてもらった」
「お父さんと、お姉さん?」
「アイリスは、お母さんになる人」
「へえぇ、そうなんだあ」
シエラとナースリーのこの会話を聞いていたのはすぐ前を歩く教官だった。
ん? ギルドマスターと同名? いやまさかな。と思いながら肩を竦め、受験生を校舎内の一室に先導したその教官は「では、筆記試験開始までここで待っていてくださいね」と立ち去っていった。