入所試験、まずは剣技
冒険者養所の入所試験は時間通りに開始された。
受験番号などはないが、どうやら貴族の子供達から試験を受けるようだ。
試験とは言え、十歳の少年少女達が受ける試験だ。
難しい剣技を披露しろだとか、高難度の魔法を発動させろなどとは言わない。
この試験は要は受験に来た新たな冒険者の卵にランクを付け、そのランクに基づいて教育課程を決める試験である。
最初の試験は、地面に立たされた冒険者ギルドにある試し斬り人形と同じ人形に向かって武器を振れるかどうかだった。
貴族の少年少女達は家では親御さんや家庭教師なりに教わって鍛錬を行っていたのだろう。
持参した剣を使い、数度切り込み人形に傷を付けては親や他の貴族、受験生の少年少女達に感心されていた。
「ほお、流石はディスタール家のご子息ですな。
アレン殿の剣技は十歳にして高みにあられる」
「褒めすぎだウズバル卿、まあ確かに十歳にしてはやる方だと思うがね」
先程鍛錬場の外で声を掛けてきた金髪碧眼の王子様のような少年、アレンの父親が胸を張り、自慢気に他の貴族に息子の剣技を自慢していた。
それを見て聞いていたシエラは「あれで良いのか」と納得するように試験の様子を眺める。
貴族の少年少女達は全員武器を振れるので試験はスムーズに流れた。
今度は平民枠、シエラ達の番だ。
流石に剣に触れた事はないのだろう。
貴族の少年少女達より随分試験の進みが遅い。
「見てろよ!剣ぐらい俺だって使えるぜ!」
と、元気な声を上げてシエラに突っ掛かってきたガング少年が力任せに剣を振った。
剣技も何もない、斬るというよりは殴るに近い攻撃だ。
「シエラちゃんは行かないの?」
「ん。俺は最後にする。多分、壊すから」
「へ?」
シエラの最後の言葉は隣に立っていたナースリーには聞こえなかった。
ガングの後に人形を斬りつけ戻ってきたリグスに「後お前達だけだぜ?」と声を掛けられたからだ。
「うぅ、自信ないなあ。魔法なら大丈夫なんだけど」
自信なさげにナースリーは人形の前に行くと剣を横薙ぎに振る。
しかし、刃をたてて斬りつける事が出来なかったのか、ナースリーの剣は人形に弾かれてしまった。
「あうぅ。やっぱり剣なんて女の子には無理だよお」
「そうでも無いよ、見てて」
最初の試験、最後の一人としてシエラは腰から剣を抜き試験官役の教師の前を横切る。
その際にシエラは「先生、アレは壊しても良いの?」と聞くために立ち止まった。
「自信ありかい? まあ無理だとは思うが……別に構わんよ。替えはあるから」
「ん。分かった、じゃあ……壊すね」
二人の会話が聞こえたわけではなかったが、平民枠で唯一人、武器を持参しているシエラを皆が注目していた。
ガング達のような気の強い子供達は「女がまともに剣なんて振れるかよ」と馬鹿にするようにニヤニヤ笑う。
しかしシエラはそんな事お構い無しだ。
リチャードやアイリスと模擬戦をするときの様にダラリと剣を下げて試し斬り人形へと近付いていく。
そして、射程内に試し斬り人形を捉えると肩に担ぐように剣を構え、腰を落とした。
それはリチャードの剣の型だった。
小指から薬指、中指から人差し指、最後に親指の順に力を加え、一気に袈裟に剣を振り下ろす。
するとどうだろうか、試し斬り人形の首の左から入った刃はやすやすと右の腰辺りまでを斬り裂き、少年少女達の斬撃を悠然と受け止めていた試し斬り人形は斜め一文字に真っ二つなってしまった。
それだけではない。
シエラは剣を振り下ろした勢いで体を回転させ、崩れ落ちていく人形の首を斬り落として見せた。
振り下ろしからの連撃はアイリスの技の一つ。
それをリチャードの剣技から繋げたのだ。
「……やっぱり壊れた」
教師含め、貴族や受験生全員が唖然としたのは言うまでもない。
ただ一人リグスだけが「リチャードのおっちゃんの娘だもんなあ」と納得しているようだった。