買い物は終わった。よし、帰ろう
服を数着、下着を数組買った後にリチャードはあることに気が付く。
「子供服って高いんだなあ」
自分が持っている服より遥かに小さい子供用の服の値段が、自分の服とほぼ同じかやや安い値段だったことに釈然としないリチャードだった。
しかし、それでもリチャードは損をしたとは思わなかった。
自分の服に無頓着で、着飾る事をしない故にたまに服を買うとなると「布の服一着買うくらいなら同じ金額分食材を買った方が良いのでは?」
と思うような男がだ。
「さて、帰るか」
服の入った袋を下げ、歩き始めたリチャードは生活用品店の前を通り過ぎた際に、冒険者パーティとクエスト中にキャンプした女性陣が「頭髪用洗剤じゃないと髪が傷んで嫌だ」と言ってボヤいていたのを思い出す。
「……ふむ」
予定していなかったが、リチャードは生活用品店へと足を向け、店員の勧めるまま頭髪用洗剤を複数買い、更には子供用の食器なども揃え、気が付けば両手いっぱいに買った物を持つ事になっていた。
「こんなに一気に買い物をしたのは初めてだな、他に足りない物は……いや、流石に帰るか、足りない物はまた次の機会にしよう」
両手いっぱいに荷物を抱え、自宅の前まで帰ってきたリチャードが荷物を一旦置き、玄関を開ける。
そして服が入った袋を少女が眠る寝室に、食器類はキッチンに、日用品は各々必要な場所へと配置していく。
一人暮らしには広い住み慣れた一軒家であるはずだが、リチャードは引っ越してきたばかりのような感覚を感じた。
「ああ、悪く無い。悪く無い感覚だ」
買い物を片付け終えたリチャードは少女が眠る寝室の扉を少し開けて中の様子を確認する。
少女はよく眠っており起きる気配は無い。
気持ち良さそうに眠る少女にリチャード自身は気が付かなかったが、少し頬が緩んでいた。
「私も少しばかり昼寝といくか」
寝室の扉を出来るだけ静かに閉めたリチャードは、リビングへ向かいながら呟く。
そして、冒険者の友人等を招くために用意していた三人掛けのソファに腰掛け、ソファの前のローテーブルに置いてあった小説を手に取ると、寝転びながらその小説を読み始め、眠気が襲ってくると抵抗することなく小説を置き、目を閉じた。
それからどれくらい眠っていたのか、リチャードは扉のドアノブがガチャリと音をたてたのを聞いて、目を開いた。
「起きたか」
ソファから起き上がったリチャードはリビングから廊下へ向かう。
割と広い家ではあるが、貴族の住むような屋敷程広い訳でもない。
リビングから廊下に出ると、寝室の前に寝ぼけ眼を擦って下を向く少女が立っていた。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「……うん」
「寝室にある袋に服が入ってるから、好きなのを選んできなさい」
「……これでも良い」
「サイズが合ってないから脱げそうじゃないか。
……まあ後でも良いか。
こっちにおいで、ゆっくり話をしよう」
リチャードの言葉に少女は無言で頷きリチャードの待つリビングの前へと歩を進める。
そして導かれるままにリビングに入ると、促されるまま先程までリチャードが寝ていたリビングのソファに腰を下ろした。