シエラの願い
川に遊びに行った翌日。
シエラはベッドの上で目を覚ますと隣で眠るリチャードを揺すって起こした。
「リチャード、朝だよ?」
「ん、もうそんな時間か。よし、走りに行こう」
「ん。行こう行こう。
……ねえ、アイリスは?」
「アイリスは仕事があるからね、昨日帰ったよ」
「そっか、また来てくれるかな」
「ああ、今日も来てくれるよ」
「おお、やった」
ベッドの上で体を起こして座り、話す二人。
シエラは随分アイリスの事を気に入ってるらしい。リチャードがアイリスが今日も来ると伝えると微笑んでいた。
そこでリチャードはシエラに昨晩の事を伝えようとするが、交際どうのこうのが子供に理解出来るか分からなかったので、ある質問をする。
「なあシエラ、アイリスがお母さんになったらどう思う」
「ん~。楽しそう、嬉しい。
アイリスからはリチャードと一緒で俺を好きって感じるから」
「そうか、嬉しいか。ならアイリスにお母さんになってって頼んでみようか」
「迷惑にならない?」
「大丈夫さ。アイリスはシエラが大好きだからね」
シエラの頭を撫で、リチャードはベッドから降りるとクローゼットに向かい自分の着替えとシエラの着替えを取り出す。
そしてトレーニング用の服に着替えると、外に出て日課のジョギングを開始した。
シエラの入学とリチャードの赴任まで後数日、二人のコンディションは心身ともに上々である。
この日の晩の事、リチャードが言っていた通りアイリスがリチャード宅を訪れた。
手には替えの着替えだろうか、袋をいくつか持っている。
「いらっしゃい、いや、お帰りアイリス」
「お帰り、アイリス」
「ただいまリチャード、シエラちゃん」
「夕食は出来ているが、先に風呂にするかい? 今日は泊まるんだろ?」
「先にご飯にしましょ、お風呂は後でゆっくり頂くわ」
「そうか、では食事にしよう」
リビングにアイリスの荷物を置き、三人で役割分担してキッチンからダイニングへ食事を運んで夕食を楽しむ。
昨晩に引き続き三人での食事だ。
「ああ、帰ったら食事が用意されてるって、幸せ」
「ハハハ。まあ、分からんではない気持ちだな」
食事を終え、リビングで寛ぐ三人だったが、アイリスが風呂に入ると言って袋をガサガサ漁って着替えを出そうとしていると、アイリスの後ろにシエラが立ち、何やらモジモジし始めた。
「ねえ、アイリス」
「あら、どうしたのシエラちゃん」
「あのね、俺アイリスの事好きなんだけど、えっと、それでね。
アイリスが困らないなら、俺のお母さんになって欲しいなって」
「なる! 私がシエラちゃんのお母さんになってあげるわ」
下を向いてモジモジしながら顔を真っ赤にしているシエラに振り返り、シエラを抱きしめるアイリス。
その様子を見ていたリチャードはソファから立ち上がると、二人の元に向かい「良かったなシエラ」と言いながらシエラの頭を撫でた。
「せっかくだ、今日は二人でお風呂に入ってはどうだい?」
「ん。入る。良い?」
「うん、良いわよ。一緒にお風呂入りましょ」
こうして二人は着替えを持って風呂場に向かって行った。
シエラと出会い、それまで諦めていたアイリスとの関係も好転した。人生何が起こるか分からないものだ。
リチャードはソファに座り直し、ローテーブルに置いていた紅茶に手を伸ばして、これまで感じたことがない充足感を口に運んだ紅茶と共に味わっていた。