サンドイッチだったものは完食しました
薪を拾い集め、二人の下に帰ってきたリチャードが見たのはアイリスが持参していたバスケットから何やらパンらしきものを取り出し食べているシエラと、同じく何故か申し訳なさそうに俯きながら同じものを食しているアイリスの姿だった。
「そんなに腹が減っていたのか。すまない留意すべきだったな」
「違うの、気にしないで私が悪いんだから」
「親父もサンドイッチ食べる?」
「サンドイッチ……斬新な――」
「そのくだりはさっきシエラちゃんとしたわ!」
「そ、そうか。どれどれ」
「あ、ちょっと貴方まで食べるなんて」
「ふむ、おおかた私達を追いかけてくる過程で崩れたのだろう?
なに、冒険者であるならば時には雑草や虫すら喰わねばならん時がある。
それに比べれば崩れたサンドイッチなんて、これほど豪華な食事もあるまいて……ああ、うまいな。
アイリスの料理は、形が崩れた程度で味は落ちんよ
生野菜の類も鮮度がいい、スクランブルエッグも柔らかでハムも逸品、レストランの朝食メニューでもここまでの物にはお目にはかかれないと思うよ」
雑草や虫と並べて比べるからけなしているのかと思いきや、味に関してはべた褒めするのでアイリスの心境はまったく穏やかではなかったが、ポンコツな面を見せてしまって恥ずかしいが勝っているのか反論はせずアイリスは俯いて歯噛みしていた。
「今度はちゃんと作ってくるわ」
「ああ、それはいいな。シエラと楽しみに待っているよ……アイリ」
普段呼ばれない愛称で呼ばれ、一瞬思考が止まったアイリスがハッとして顔をあげる。
しかし、そこにリチャードはおらず、シエラと共に取ってきた薪をくみ上げている後ろ姿だけがアイリスからは見えていた。
「シエラ、これも覚えておいて損はないから覚えていなさい、焚火というのは小さい枝から燃やして、大きな枝はこうして後からくべていくんだ良いね?」
「ん。覚えとく」
「木の枝もそうだがコーヌス、松ぼっくりの方が分かりやすいかな?
あれがあれば良く燃える着火剤になるから、まあこれは頭の隅にでも置いておくといい」
高齢による動悸ではなく、恋煩いから心臓をドキドキさせているアイリスを尻目にリチャードは娘に野営で使える豆知識を教え、されど用意した焚火には火を付けずに今度は釣り竿の針につける疑似餌の準備を始めた。
「親父? 火は付けないの?」
「気が早いぞシエラ。まずは魚を釣ってからさ」
「そっか。確かに今火を付けても釣るのに時間がかかったら火が消えちゃうもんな」
「そういう事だ。よく気づけたな偉いぞ」
褒められ「エへへ」と笑うシエラに釣り竿を渡し、リチャードはもう一本の釣り竿も用意するが、それをリチャードは自分で使わず敷物の上に座るアイリスに差し出した。
その意味するところは「君も釣りをしないか?」という誘いだ。
その行動に対してアイリスは釣り竿を受け取りながら「あなたの分は?」と聞くが、リチャードは首を横に振って自分の手から釣り竿を離した。
「私は新しい釣り竿を自作して使うよ、幸い替え用の糸と疑似餌は予備があるからね、丈夫そうな枝も見つけてきたし、なんとかなるさ」
言いながらリチャードはアイリスから離れ、取ってきた木の枝を少し剣で削ると糸を括り付けただけの簡単な釣り竿を作って針付きの疑似餌を取り付けると川へと向かった。
「さて、釣れるといいが」
「親父、隣で釣っててもいい?」
「糸が絡まるかもしれないから少し離れるんだぞ?」
「ん。わかった」
「じゃあ私はシエラちゃんの隣で釣っちゃおうかなあ」
川岸の大きな岩に腰掛け座る親子二人とアイリスの三人。
皆一様に靴を脱ぎ、川に足を入れ涼をとりながらの釣りが開始された。