親子で遊びに行く話
リチャードとシエラが冒険者ギルドに通い始めて6日、この世界で言うところの一週間が過ぎた。
太陽の男神、月の女神、火の男神、水の女神、空の男神、地の女神。
この世界を見守っていると伝えられている六柱の神にあやかって太陽の日、月の日、火の日、水の日、空の日、地の日と一週間が定めらているわけだ。
そして今日は一週間の終わりである地の日、我々で言うところの日曜日にあたるこの日、リチャードとシエラは冒険者ギルドでの鍛錬を休み、釣り竿を肩に担いで街の外に出た。
鍛錬ばかりでは体を壊すと思ったリチャードがシエラを連れ出したのだ。
昨夜の事、鍛錬を終えて帰宅したリチャードとシエラの二人が一緒にお風呂に浸かって蕩けそうな程に寛いでいた。
そんな時、リチャードが「地の日は息抜きに遊びに行こうか」とシエラに提案したのだが、シエラは首を傾げて「なんで?」と返した。
「鍛錬ばかりでは疲れる一方だからね、ゆっくり休むのも良いが、たまには外に出て息抜きでもと思ったのだが」
「鍛錬も楽しいけどなあ」
「休むのも大事なんだぞシエラ。
鍛え続けると壊れる事もあるんだ、ゴムをずっと引っ張り続けるといつかはプチンと切れるだろ?」
「うん、切れる」
「人間の体も同じさ、動かし続けていればやがて壊れる。
今はまだシエラは若いから大丈夫だが、大人になってから蓄積されたダメージは表に出てくるからね。
将来ずっと足や腰、肩が痛いのが続くなんて嫌だろ?」
「ずっと痛いのはヤダ」
「だから、たまに休むのさ。分かるね?」
「ん。分かる」
と、まあ風呂に入りながら翌日は休むと決めた二人だったが、リチャードはこの後リビングで悩む事になる。
シエラはたまの休みも基本的に外に出ない。
リチャードと一緒に小説を読んだり、リチャードが作成した魔物図鑑を楽しそうに読んだりするのがシエラの休日の過ごし方だ。
何が言いたいかと言うと、リチャードには年若い少女を何処に連れていけば喜んでもらえるかが分からなかった。
分からなければ聞けば良いか、とリチャードは自分の隣で魔物図鑑を読んでいるシエラに「どこか行きたい場所はあるかい?」と尋ねるが、シエラは首を横に振りながら「ううん、ない」とだけ応えると首を傾げる。
「演劇鑑賞や音楽鑑賞などはどうだい? 興味ないかい?」
「それは楽しいの?」
「う~ん、演劇に関しては題材によるか。
どちらにせよずっと座りっぱなしにはなるし、楽しいかと聞かれると、自信を持って楽しいとは言えんな」
「じゃあヤダ」
「おやおや、さてどうするか……」
こういう時に役に立つのは過去の記憶、思い出である。
リチャードは若い頃に孤児院で子供達の世話をしていた時の事を思い出していた。
暑いという程ではなかったが陽気が気持ちよく暖かい日。
孤児院を経営している教会のシスターに頼まれ、リチャードは当時のパーティ達と共に孤児院の子供達を引き連れて川へ遊びに行ったのだ。
リチャード達のパーティは子供達に危険が及ばないように様子を見ていただけだったが、皆楽しそうに遊んでいたのを覚えている。
そんな事を思い出したので「よし、川に遊びに行くか」となり。
翌日朝から釣り竿を倉庫から引っ張り出して準備をし、着替えも持って街を出た。
リチャードもシエラも護身用に剣も持っているので魔物に遭遇しても問題は無いだろう。
「親父、俺も荷物持つよ?」
「そうかい? じゃあこの釣り竿を一本持っていってもらおうかな」
親子二人で釣り竿担ぎ川に向かう地の日の休日。
本日は晴天、気温も高くなりそうで絶好の水遊び日和だ。