とりあえず、服を買うか
おかわりのスープも平らげ満腹になったからか、少女は再び睡魔に襲われたのだろう、ウトウト船を漕ぎ始めた。
目を擦り、今にも眠ってしまいそうだ。
だが、少女はその睡魔に抗うように首を振る。
「どうした? 眠いなら眠れば良い」
「嫌だ。寝たら夢が覚めちまう。寝たら……また捨てられる」
両親は少女が寝ている間にあの路地裏に少女を捨てたのだろう。
リチャードはその辺りを察して「安心しなさい、私は君を見捨てない」と言いながら頭に手をポンと置き、ベッドに寝かせた。
「君が出ていくと言うなら止めはしないが。
だがまあ私はご覧の通り独り身だ。遠慮せずにこの家に居たら良い。
だから、今は眠りなさい。
次君が目を覚ましたら、話をしよう」
少女に布団を掛け、腹辺りをポンポンと軽く叩く。
子供の頃、眠る際に父母にしてもらった事を真似しただけだったが、効果は有ったようだ。
少女は涙を浮かべながら目を閉じて意識を手放した。
「ふむ、なるほど。
子供の寝顔は見てると微笑ましくなると友人から聞いた事があるが……なるほどなるほど、確かにな」
リチャードは少女の睡眠を邪魔しないようにと思い、席を外そうと椅子から立ち上がるがベッドに背を向けようとした時にシャツの裾を少女に握られている事に気が付く。
しばしどうするか悩むが、リチャードはそっと手を触って離させると部屋を後にした。
「すまんな、流石に買い物に行かないと――」
日が高く昇った正午過ぎ。
リチャードは護身用にと、剣だけ背負い家を出た。
何時もなら仕事で街から出ている時間帯に街を歩く事に若干の違和感を感じながら、リチャードは市場の服飾店へと足を運ぶ。
そこはリチャードがパーティの仲間たちとよく訪れた品揃えが豊富で、なおかつ庶民向けの値段設定な事で人気の店だ。
「いらっしゃい。おやリチャードさんじゃないか。
こんな時間に珍しい。今日は休みかい?」
「やあ店主。いや、私は昨日冒険者を引退してね」
「はあ~。冒険者達が噂してたのは本当だったんだねえ。
とは言えだ。此処に来たって事は服をお求めだろう?
安くしとくよ、どんな服をお求めかな?」
小太りの老店主がリチャードが自分から引退したと聞き、最初は驚いて目を丸くしていたが、切り替えの早さは流石商売人。
老店主はニコッと微笑みながらリチャードの返答を待っていた。
「子供服を探していてね」
「リチャードさん、お子さんがいたのかい!?
男の子かい? 女の子かい?」
自分の引退話より食付きが良い老店主に複雑な心境を抱きつつ、リチャードは苦笑する。
「まあちょっと訳ありでね。性別は女の子だ」
「はあ~そうかいそうかい。サイズは?」
「……サイズ? ああ寸法か。 ……いや、知らんな」
「リチャードさん、父親なんだったらそれくらい把握してないといかんよ?
まあまあ、背丈はどんなもんかね?」
「ああ、それなら頭が私の腹より少しばかり上に来るくらいだ。
目算だが、140cmくらいか」
「ふむ、ちょっと待っておくれ。
フリーサイズのワンピースやら見繕ってくるよ」
「ああ、後、済まないが下着も頼めないか?」
「背丈からして10歳前後くらいかね。
ドロワーズがあったなあ。
ああ子供用のレギンスもあるか。分かった、用意しよう」