シエラの戦い方
盾を構え、シエラの出方をうかがうリチャードに、剣と魔導銃をダラリと力無く下ろしていたシエラは不意に銃口をリチャードに向けた。
「先手……ひっしょー」
リチャードに向けた魔導銃の魔石に魔力を込め、シエラが放ったのは以前この場所で試し斬り用の人形の胴体から上を粉砕した水の魔法を射出する。
大砲の砲弾の様な硬質な水球がリチャードへと向かい、その魔法を射出したシエラは直後リチャードへと向かって駆け寄っていく。
近接格闘には子供が大人に痛手を与える方法はいくらでもある。
噛み付いたり、引っ掻いたり、踵で足を踏んだり、脛を蹴り飛ばしたりと、知っているなら、使えるならば子供にも大人を悶絶させる攻撃は可能なのだ。
しかし、魔法という技術は大人を悶絶させる程度では済まさない。
例え子供が使おうとも、ちゃんと発動した魔法は簡単に大人を殺傷出来る。それが魔法という技術だ。
シエラの放った水の砲弾もその類の魔法だ。
試し斬り人形を粉砕した水球など、生身の人間が直撃したあかつきにはどうなるかなど想像に難くない。
そんな魔法にリチャードは盾を構えた。
まともに受ければ盾ごと腕が持っていかれかねない、そう考えたリチャードは盾に角度を付け、正面から受け止めるよりは受け流す事で水の砲弾をいなした。
軌道をそらされた水の砲弾がリチャードの後ろの壁を丸く凹ませ放射状にひび割れを発生させる。
大の大人が大槌で壁を叩いた様な惨状に、観戦していた若い冒険者達は肝を冷やしていた。
そんな威力なものだから、受け流したとはいえ、リチャードは体勢を崩す。
そんなリチャードにシエラは肉迫し、剣を振り下ろした。
しかし体勢を崩していたにも関わらず、リチャードはその振り下ろされた剣を木剣で弾く。
本来なら木剣が斬り裂かれそうなものだが、リチャードが魔法で木剣を強化していたからこそ木剣で鉄の剣を弾く事が出来たのだ。
「やるじゃないかシエラ。正直見込み以上だよ」
「ん。ありがとう」
弾かれ、今度はシエラが体勢を崩すが、シエラはシエラで体勢を崩しながらも銃をリチャードに向けては今度は只の魔力の塊を弾丸に見立てて数発放つ。
これをされては追撃出来ないと、盾を構え直し、リチャードは魔力の弾丸を防いだ。
その盾を構えている方向にシエラは回り込み、リチャードの死角に入る様に移動すると、再びリチャードへと向かって駆け寄る。
良いセンスだ。もしかしたらこの子は本当に――。
リチャードの思考を中断させるようにシエラが剣を振り、魔導銃からは魔力の弾丸や得意の水魔法を放つ。
それを軽く全て、いなし、躱し、受け止めるリチャードだったが、初めての模擬戦でここまで動けるシエラにリチャードの期待は膨らむばかりだ。
天才だ。この子には間違いなく“戦う”才能がある。
考えながらリチャードの顔に笑みが浮かぶ。
そしてシールドバッシュを後ろに跳んで躱したシエラの剣と銃をダラリと下ろしたような構えに、リチャードはアイリスの姿を重ねて見ていた。
シエラは見様見真似でアイリスの二刀流を模倣し、剣と銃でそれを再現していたのだ。
「アイリスの二刀流か、よく再現出来てるよ」
「ん。頑張った」
汗だくになっているシエラが、全く汗をかいていないリチャードの言葉に満足そうに微笑む。
「私の真似はしてくれないのかい?」
「親父の真似すると、銃が使えない」
「出来なくは無い、と。
ハハハ、凄いなあ。将来が俄然楽しみになってきたよ。
ふむふむ、よし、今日は一旦止めにしようか。
シエラの戦い方にあったトレーニングメニューを考えるよ」
「ん。分かった。……親父、パフェ食べたい」
「お、良いな。私も食べたいと思っていたんだ。
ギルドで特製パフェを食べてから帰るとしようか」
「やったあ」
本当に嬉しいのかいまいち分かりかねる歓喜の声にリチャードは苦笑すると、木剣を腰に、盾を背中に携えた。
シエラも同じように腰の鞘に剣をしまい、肩に銃を掛けるとリチャードに駆け寄り手を繋ぐ。
壁際の棚に置いていたタオルを取り、リチャードはシエラの汗を拭うと二人は屋内へと向かっていった。
その一部始終を見ていた若い冒険者達は休憩を終えると「俺達も負けてらんねえ!」と模擬戦を再開。
二人の模擬戦は、というよりはシエラの戦いぶりは、若い冒険者達を奮い立たせる程の物だったわけだ。




