駄々っ子も眠気には勝てない
冒険者の中には魔剣士として日々のクエストに励んでいる者がいる。
剣も魔法も使える才能、絶え間ない努力と修練の結果辿り着く境地の一つである魔剣士。
シエラは無自覚なままにその魔剣士を目指す事に決めたのだ。
いや、魔剣士と言うよりは魔銃剣士とでも言うべきだろうか。
もちろんリチャードはシエラが剣と魔導銃を選んだ際は、それらを同時に使うとは思っていなかった。
剣を学びつつ魔法も学び、どちらの道を行くか選ぶのだろうかと思っていたのだ。
しかし、シエラ用にと商業区の武具店で子供用のショートソードと、特注で用意してもらったサイズダウンされた魔導銃を購入した時の事。
「ハハハ。2つ同時に使うつもりかい?」
シエラが右手に剣を構え、それを下ろして左手に持ったライフルを構えたのを見て、リチャードは冗談混じりに笑って聞くと、シエラは至極真面目な顔で「ん、2つ使う」と自分専用の武器にご満悦な様子で答えた。
「剣と魔導銃を同時になんて……いや、出来ないあり得ないと子供の可能性を潰すのは親のすることではないか」
「アイリスの真似」
「ああ、そうか。アイリスの二刀流から着想を得たのか。
だがシエラ、二刀流……とは少し違うが、恐らく剣と銃2つを同時に使いこなすのは相当困難だぞ?
茨の道を歩くような物だ、それでも同時に使いたいかい?」
「ん。茨の道でも道があるなら進めるって事だろ? なら進むよ、リチャードやアイリスがその先にいるから」
「そうか、なら明日からは少しずつ筋力トレーニングもしなければな」
リチャードの目を真っ直ぐ見つめて言うシエラにリチャードは微笑み、シエラの想いに応えるように頭を撫でる。
頭を撫でられたシエラは大層嬉しそうに笑顔を浮かべて「トレーニング、頑張る」と張り切っていた。
そしてその日の晩の事。
リビングで寛いでいた親子二人だったが、そろそろ眠気が襲ってきた夜更け頃。
「さて、そろそろ寝ようかシエラ」
と、欠伸をし終わったリチャードが言うと、シエラが買ったばかりのぬいぐるみでも抱えるかのように自分の剣と銃を抱えた。
「こらこら、武器とは一緒に寝る事は出来ないぞ?」
「やだ、一緒に寝る」
「危ないだろ? 万が一怪我でもしたらどうする」
「……やだ、一緒に寝たい」
恐らくはかなり眠い事で駄々っ子になっているだけなのだが、さて困った、と眠る前にリチャードは頭を悩ませる事になった。
何せシエラが駄々をこねたのがコレが初めてなのだ。
鞘に入っているとは言え、武器を抱えて眠るのは危ない。
なのでリチャードは妥協案としてベッドの横に椅子を2つ並べ、その上に剣と銃を置きその上にタオルケットを掛けて誤魔化してみた。
「こ、これで如何かな? これなら一緒に眠れるだろ?」
「……ん。……これなら……良い」
満足した、というよりは眠気に負けたのだろう。
シエラはリチャードよりも先にベッドに潜り込むと自分の武器を眺めながら夢の世界へと落ちていった。