シエラは欲張りたいお年頃(武器)
シエラに栄養満点の食事を与え、適度な運動をさせていくと、やせ細っていた体は徐々に健常な状態へと戻り、診療所での何度目かの鑑定診察にてまだ痩せているが健康状態に問題なしとの太鼓判を貰ったリチャードはその診察の次の日からシエラとジョギングをすることにした。
シエラの運動機能は確かに正常だ、生活するには何ら問題ないと鑑定医に太鼓判も貰った。
しかし、それはごく一般的な10歳の少女のこの国の平均ギリギリの数値らしいというので軽い運動をしていこうという話になったわけだ。
いつもより早く朝起きて、まだ薄暗い街をシエラに合わせて走る。
最初は大した距離を走ることができなかったシエラだったが、彼女の負けん気がそうさせるのか、シエラは弱音を吐くことなくジョギングを続け、体力を順当に付けていった。
「シエラは偉いな。ちゃんと毎日走って」
「運動は嫌いじゃないし、隣にリチャードがいてくれるから、頑張れる」
「嬉しい事を言ってくれるな我が娘は。それに運動が好きか、もしかしたらシエラは前衛向きなのかもなあ」
朝のジョギング後の汗を流すために自宅で朝風呂を堪能する二人。
リチャードがいつぞやのようにシエラを自分に背を向けるように同じ浴槽内に座らせ、頭を撫でながら言った言葉にシエラは恥ずかしげもなく答えるとリチャードからは見えなかったが満面の笑みを浮かべた。
「シエラは冒険者になったらどんな武器が使えるようになりたいんだい?」
「リチャードはなんでも使えるんだろ? じゃあ俺もそうなりたい」
「うーむ、それも一つの道ではあるんだがなあ。
最初は一つか二つに絞って武器を使えるようにしておいた方が良い。
でないと万能に届かず凡庸にとどまる事になってしまうからね」
「ぼんようってなんだっけ、器用貧乏と同じ意味だっけ」
「ああ、そっちの方が伝わったか、似てはいるが微妙にニュアンスは違うものな」
「俺賢くなってる?」
「賢くなっているとも、私の知る限りではシエラほど博識な10歳はいないと断言できる」
「ん。嬉しい」
風呂から上がり、部屋着に着替えてキッチンへ足を運び、二人そろってコップに入れた甘い砂糖入り牛乳を手を腰に当てて一気に飲み干す。
その後朝食のバタートーストと目玉焼きサラダを食べ終わると、この日は勉強に取り掛からず、風呂場での会話の続きから、リチャードはシエラを自宅の武器庫へと初めて案内することにした。
「うわあ、武器が一杯だあ」
「仲間が置いていった物もあるからなあ」
シエラの眼が好きな料理をリチャードがテーブルに並べた時と同じように爛々と輝いている。
宝石や、アクセサリー、可愛らしい服より武器の方が喜ぶとは、とシエラの将来をやや憂うリチャードに構うことなく、シエラは武器庫の中を歩き回っては壁に掛けられた武器類を楽しそうに眺めていた。
「これが使いたいっていうのはあるかい?」
「どうしても決めなくちゃダメなの?」
「ダメではないが……分かったこうしよう。
シエラが望むように私が使用可能な武器の使い方、戦い方は教える。
しかし、まずは一つ、多くても二つ、シエラが使いたいと思った武器を選ぶんだ。
これなら戦えるという武器を練習して、慣れてもその武器での修業は続け、上達したと判断したら並行して別の武器の使い方も教えることにするよ」
「ん。分かった、頑張る」
リチャードにそう言われ、シエラは真っ先に壁に掛けられているかつてのリチャードの愛剣の下へと向かってその剣を指して「じゃあ俺は剣を使う」と言った。
その行動にグッと来るものを抑え込もうとするリチャード、親馬鹿である。
だが、シエラはそれだけを選んだわけでもなかった。
リチャードの剣に背を向けたシエラは対面の壁に掛けてあったもう一つの武器の下に向かうと、その武器にも指をさして「これも使いたい」と言った。
その武器というのが唯一シエラが使用したことのある魔力と魔法を放つ魔導銃だった。